研究課題
レトロウイルス感染に伴って起こるさまざまな宿主細胞反応について解析を行う中でウイルス感染に対して低線量放射線照射による宿主の免疫賦活化治療モデル を作製していたところ、偶然にもウイルス感染に伴う著明な apoptosis 増強作用を見出した。これは全く予想されない発見だったが、宿主/ウイルス相互反応の 中からヒト疾患、特に腫瘍の病態改善につながる細胞反応を抽出できる可能性があると考えられた。ノックアウトマウスを用いた検討などから、通常とは全く異 なる新たな経路で p53 依存性アポトーシスシグナルが増強されていることが明らかになった。またin vitro の実験系を用いてこの現象の機序を徹底解明したと ころ、新たな apoptosis 誘導経路に関わる MCM2(minochromosome maintenance protein 2) の作用機構の全貌を解明することができた。 悪性腫瘍の中には高悪性度、予後不良といわれる型のものがある。例えば乳癌 では Triple negative(TN)型(ER陰性、PgR陰性、HER2陰性)の浸潤癌は、ホル モン治療やハーセプチン治療が無効で、化学療法の有効性も低いため、非常に予後が悪いことが知られている。また、膵浸潤性膵管癌や卵巣明細胞癌も予後の悪 い型の腫瘍である。このような腫瘍に高発現する分子の一つとしてMCM2に注目した。我々はこれまで、マウスを用いた実験によりMCM2 を介した apoptosis 増強 作用の機序を解明してきた。そこで、本研究では、MCM2 を標的としたヒト腫瘍への apoptosis 誘導法を開発し、悪性度の高い腫瘍の新たな治療法を確立するこ とを目的として解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではまずMCM2発現の高い悪性腫瘍細胞株を用いたin vitroの実験系でこの現象を再現し、新たなアポトーシス誘導経路に関わるMCM2の作用を明らかにした。また、それを応用した治療モデルの作成を目的として研究を進めることとした。具体的にはリコンビナント蛋白としてgp70を細胞内に導入する手法を開発し、白血病細胞及び上皮性の固型腫瘍細胞においてMCM2の作用を応用したアポトーシス誘導実験系を構築した。In vitroでの実験ではほぼ予想通りの結果が得られたので、さ らにin vivoの腫瘍に対する治療実験を行って有効性を検証した。その結果、白血病のみならず固型腫瘍に対しても非常に良好な結果が得られた
本研究では、卵巣明細胞癌でMCM2 の細胞質内局在を認めた例のMCM2分子について解析を進め、遺伝子変異や欠失の有無、核移行シグナルへの蛋白修飾等につい て新たな知見を得る。また、MCM2発現の高いヒト悪性腫瘍細胞株を用いたin vitroの実験系で核移行シグナルを修飾することでこの現象を再現し、新たな apoptosis 誘導経路に関わるヒトでの MCM2 の作用を明らかにするとともに、それを応用した治療モデルの作製を目的として実験を行う。具体的には卵巣癌細胞株(OVTOKO、OVISE)に核移行シグナルを欠如するMCM2-変異体を導入する実験系、細胞内抗体の作用を応用したMCM2 核移行シグナルの修飾を行う。細胞内抗体 については、マウス細胞系で成功しており、ヒト細胞での応用を目指す。in vitro での確認ができたら、in vivo の腫瘍に対する治療実験を行い、その有効性を検証する。
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