研究課題/領域番号 |
18K07044
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
池田 栄二 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (30232177)
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研究分担者 |
崔 丹 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (40346549)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血液脳関門 / Claudin-5 / Basigin / 低酸素 / 炎症 |
研究実績の概要 |
本研究は、神経系血管バリアー機能を人為的に調節する手法の確立を通じ、難治性神経疾患に対する新規治療法を開発することを終着点とする。これまで我々は、神経系血管バリアー機能の制御分子として、血管内皮細胞の細胞膜に局在するADAM12およびBasiginを特定し報告した。そして、Basiginの内因性ligandであるCyclophilin A(CyPA)の投与が、人為的かつ可逆的に神経系血管バリアーを開く手法となる可能性を示す知見を得た。また、神経系血管バリアー機能の責任分子であるClaudin-5(tight junction構成分子の1つ)のC末側に、神経系血管バリアーが病的に開く過程に関与する候補アミノ酸をアミノ酸Xに絞り込んだ。 2019年度には、臨床現場にて使用されている水溶性薬剤(Tetracycline、Doxorubicinを用いた)を、マウス脳組織の実質に到達させる手法を検討した。その結果、CyPA併用投与により、水溶性薬剤が脳組織実質に到達する可能性を示すデータが得られたが、現在、CyPAと薬剤の投与タイミングなどプロトコールの最適化も含め解析を続けている。Claudin-5分子C末測の解析については、これまでのアミノ酸Xへの絞り込みは、CD8細胞外・膜ドメインとClaudin-5細胞内ドメインの融合分子をイヌ腎尿細管上皮細胞(MDCK-Ⅱ)に導入する実験系にて得られたデータである。そこで2019年度には、マウス脳血管内皮細胞(bEND.3細胞)の内因性Claudin-5のアミノ酸Xに変異を導入し解析する方針とし、現在CRISPR-Cas9を用い、変異細胞を作製中である。さらに、2019年度の実績として、血管内皮細胞の細胞膜分子であるBasiginについて、その糖鎖修飾により神経系血管バリアー機能制御機能が異なることを示唆する興味深い知見も得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経系血管バリアー機能の制御機構について、我々独自の実験系を用い解析を行い特定した制御分子のなかから、開いた血管バリアーを人為的に閉じるためとともに、閉じている血管バリアーを人為的に開くために標的とすべき候補分子としてBasiginが有用であることを示すデータが得られている。さらに、併用投与によって血管バリアーを人為的に開き、水溶性薬剤を脳組織の実質に到達させるための候補投与分子も得られている。また、血管内皮細胞の細胞膜に発現局在し、神経系血管バリアー機能を担う分子であるClaudin-5のC末側に、血管バリアーの開閉に必須な候補アミノ酸を特定する研究計画も順調に進んでおり、新たな制御因子特定の糸口にもなると考えている。さらに、Basiginの神経系血管バリアー機能制御が、糖鎖修飾に依存することを示唆するデータも得られており、より副作用の少ない治療戦略の礎になる可能性が期待される。以上の通り、血管バリアーの人為的調節手法の確立に向けた研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに得られた成果を発展させる。閉じた神経系血管バリアーを人為的に開く系については、具体的にCyPA併用投与により静脈内投与したTetracycline、Doxorubicinが脳組織実質に効率高く到達するプロトコールの確立を目指す。Claudin-5のC末側の解析については、CRISPR-Cas9を用い、内因性Claudin-5のアミノ酸Xに変異を有する変異脳血管内皮細胞(変異bEND.3細胞)を作製し、低酸素刺激・サイトカイン刺激などの病的刺激下での変異Claudin-5の細胞内動態、変異bEND.3細胞monolayerの電気抵抗値(血管バリアーの指標)の変化を解析し、アミノ酸Xの神経系血管バリアー機能制御に果たす役割を明らかにする。さらに、Basiginの神経系血管バリアー機能制御能への糖鎖修飾の関与を詳細に解析し、神経系血管バリアーの人為的制御のために標的とすべき糖化Basigin型の特定を行う。
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