研究課題/領域番号 |
18K07045
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山崎 哲男 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (90330208)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 小胞体 / CLN6 / 神経性セロイドリポフスチン症 / Kufs病 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、組織学的特徴としてタンパク質凝集体の細胞内蓄積を共有する一連の遺伝性難病の克服に向けた治療戦略の創出である。研究代表者は「小胞体膜ならびにその近傍の微小環境を操作すれば、タンパク質凝集体の形成を予防できる」ことを世界に先駆けて見出し(BBRC, 2014)、併せて凝集体形成阻害能を発揮する分子実体として小胞体膜貫通タンパク質CLN6を単離・同定した(BBRC, 2017)。このような実績をふまえ、研究期間内に小胞体膜を取り巻く微小環境を標的に据えた治療法の開発を目指している。2019年度には、神経性セロイドリポフスチン症の一種(CLN6病)を引き起こす一連の病原性CLN6変異体の凝集体形成阻害能を解析し、以下2点を明らかにした。(i)凝集体形成阻害活性が野生型と同等のもの及びほぼゼロになるものに加えて、中間的な活性を呈する変異体が存在すること、(ii)複数の変異が患者で報告されているアミノ酸に関しては、置換パターン(Arg-to-CysもしくはArg-to-His)毎に凝集体形成阻害活性の減弱度合いが異なること(BBRC, 2020)。この研究成果は、CLN6遺伝子の変異は同分子の凝集体形成阻害活性を野生型CLN6比0-100%の範囲でアナログ的に減弱させるのであって、“all-or-nothing”型の単純な影響をもたらすわけではないことを示している。CLN6病の発症年齢や症状は家系間のみならず家系内でもばらつくため、これまでは遺伝子変異と病態を結びつけられずにきた。しかしながら、CLN6病の多様な病態が変異パターンに応じた凝集体形成阻害活性のアナログ型変動の反映と考えれば、整合性の取れた説明も可能となる。困難を極めてきた同病の病態生理解明の緒を開いたものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「CLN6はどのように凝集体形成阻害能を発揮しているのか?」この疑問に分子レベルで回答するために、本研究代表者は同分子と協働する小胞体膜タンパク質の単離・同定を計画した。具体的には、凝集体形成阻害能を喪失した病原性CLN6変異体および野生型CLN6それぞれへの結合タンパク質を比較することで野生型特異的バインダータンパク質の同定を予定していた。CLN6に物理的に結合するタンパク質を既に複数単離しており、2020年度はその中から機能的に連関するタンパク質を絞り込む。一方、CLN6の凝集体形成阻害能の汎用性に関しては、筋萎縮側索硬化症との密接な関連を有するTDP-43並びにSOD1 それぞれの変異体への有効性を確認済みである。2020年度は他の疾患原因遺伝子産物にも同様の効果を発揮し得るかどうかを検証予定である。
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今後の研究の推進方策 |
CLN6協働タンパク質の単離・同定が予定通りに進行していることに加えて、その途中過程で同タンパク質に備わる凝集体形成阻害能の調節機構がアナログ様式を呈する事実を見出すことができた。CLN6は神経セロイドリポフスチン症の原因遺伝子として同定されている一方で、その生理機能に関する情報はほぼ皆無であり、発症機構も謎に包まれていた。当研究成果はこの現状に風穴を開けたものと言える。したがって、2020年度は「神経セロイドリポフスチン症の発症メカニズムがCLN6の安定性ならびに凝集体形成抑制能の2点に基づいて説明し得るのか?」の疑問に動物個体レベルで回答することに注力する。この目的に向けて、CRISPR-Cas9システムを活用したノックイン・ノックアウトマウスを樹立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 3月に納品となり、支払いが完了していないため。 (計画) 4月に支払いが完了する予定である。
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