研究実績の概要 |
研究代表者は「凝集体形成を未然に防ぐ仕組みが“小胞体膜とその近傍”に備わる」ことを世界に先駆けて明らかにした(Biochem. Biophys. Res. Commun., 2014 )。これが本研究に至る発端である。ここでは「本来は細胞質に散在するシャペロン分子αBクリスタリンを強制的に小胞体膜上に発現させると、高凝集性R120G変異体の凝集を阻止できる」ことを示した。引き続いて、小胞体膜繋留型αBクリスタリン結合タンパク質を単離し、そのうちの一つCLN6を凝集体形成阻害活性の分子実体として同定した(Biochem. Biophys. Res. Commun., 2017)。CLN6は6型神経セロイドリポフスチン症(CLN6病)の原因遺伝子である。神経セロイドリポフスチン症(NCL)は、リポイド色素の蓄積を共通の特徴とする13タイプの疾患から成り、CLN6病はその中の一つである。ライソゾーム内の封入体の存在からNCLはライソゾーム病とも称され、同オルガネラの機能不全症として捉えられている。しかしながら、小胞体膜上のCLN6がライソゾームと機能連関する謎は解決されていない。また、CLN6病は乳幼児型(発症年齢1-8歳、別称vLINCL)と成人型(同16-51歳、別称Kufs病)を包含する(Butz, BBA, 2020)。実質2つの病気が引き起こされる理由を求めて、研究代表者はCLN6病家系で見出された一連の遺伝子変異がCLN6の凝集体形成阻害活性に及ぼす影響を検討した。同活性の減弱度合いは一律ではなく、遺伝子変異パターンに応じてアナログ的変動を呈することを示し、“一原因遺伝子が二疾病を招く”背景を明らかにした(Biochem. Biophys. Res. Commun., 2020)。
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