研究課題/領域番号 |
18K07049
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
伊藤 彰彦 近畿大学, 医学部, 教授 (80273647)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経変性 / 蛋白凝集 / 光学異性体 / D体化アスパラギン酸 |
研究実績の概要 |
内圧上昇による変性病変形成(緑内障や水頭症、水腎症等を想定)のモデル培養系として申請者が独自に樹立した水柱下2-チャンバー培養装置を用いて、マウスの上頸神経節細胞を初代培養し、神経軸索の伸長を促した後、30~50センチ水柱の圧負荷を加えた。神経細胞の蛋白抽出液を調整し、ウエスタンブロット法に供した。抗D体化アスパラギン酸抗体にてブロットしたところ、分子量約70 kDa付近に特異的なシングルバンドが検出された。本バンドは圧負荷検体にてシグナル強度が明瞭に上昇し、非圧負荷検体にても弱い反応性を示した。当該蛋白質は神経軸索内にて非圧負荷の状態にてアスパラギン酸残基にある程度のD体化が生じており、圧負荷にてD体化が亢進するとの可能性が考えられた。複製したSDS-PAGEゲルをCBBにて染色すると、当該サイズに明瞭なバンドが見出されたので、現在、本バンドを切り出し、質量分析に供する準備を進めている。同定された分子については、抗体を入手しウエスタンブロット法等にて上述の特異的バンドと同一であるかを確認する計画である。 一方、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するIgCAM型接着分子CADM1については、その細胞外切断(ectodomain shedding)後に細胞側に残るC末断片(CTF)が圧負荷下の神経軸索内で凝集するとの所見が得られており、CADM1-CTFのアスパラギン酸残基にD体化の可能性が疑われたが、上述の抗D体化アスパラギン酸抗体によるウエスタンブロットではCADM1-CTFやその更なる切断産物(γ-secretaseによって生成されるIntracellular domain)には抗体の反応が検出されなかった。現時点で、CADM1切断産物のアスパラギン酸残基にD体化が生じているとの明確な証拠は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、圧負荷下の神経細胞においてCADM1の細胞外切断が亢進し、その結果として軸索に蓄積するCADM1-CTFのアスパラギン酸残基にD体化が生じるとの作業仮説を掲げていたが、本仮説を支持する実験データが得られる状況にはなっていない。しかしながら、CADM1に代わる、分子量約70 kDaの新規分子の同定へと実験は確実に進んでおり、「概ね順調な進展」と判断した。質量分析の結果が出れば、本研究は大きく進展するものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
SDS-PAGEゲルのCBB染色にて明瞭に見出される分子量約70 kDaのバンドを切り出し、質量分析にて分子の同定を行うとともに、in-gelトリプシン処理検体の液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS/MS)法(京都大学複合原子力科学研究所との共同研究)にてD体化アスパラギン酸残基の有無を検定する。同定分子が圧負荷下の神経軸索内で凝集化しているかどうかについて水柱下培養を用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
質量分析によって分子量約70 kDaの分子を同定中であるが、その実施費用の支払いがまだ完了していない。 蛋白同定後には候補分子に対する抗体を購入する計画であり、次年度には相当額の支出が見込まれる。 D体化アスパラギン残基を検出する実験についても、次年度には相当額の支出が見込まれる。
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