研究課題
緑内障や水頭症において病的内圧上昇は神経変性の一因と考えられているが、分子機序は未だ解明されていない。これまでに申請者らは、特殊な加圧装置を必要とせず且つ通常の培養環境において静的圧負荷が可能な細胞培養装置を開発し、圧力上昇に伴って神経接着分子であるCell adhesion molecule 1 (CADM1)の細胞外領域の酵素的切断(shedding)が亢進し軸索変性を惹起することを明らかにした。その過程でCADM1のshedding産物にはアスパラギン酸に富む配列があり、shedding産物は圧負荷によって神経軸索上で凝集することを見出した。申請者が独自に樹立した水柱下2-チャンバー培養装置を用いて、マウスの上頸神経節細胞を初代培養し、30~50センチ水柱の圧負荷を加えた。抗D体化アスパラギン酸抗体にてウエスタンブロットしたところ、分子量約70 kDa付近に特異的なシングルバンドが検出された。本バンドは圧負荷検体にてシグナル強度が明瞭に上昇し、非圧負荷検体にても弱い反応性を示した。当該蛋白質は神経軸索内にて非圧負荷の状態にてアスパラギン酸残基にある程度のD体化が生じており、圧負荷にてD体化が亢進するとの可能性が考えられた。当該バンドを質量分析に供した。いくつかの候補分子が選出された中、ウエスタンブロット法等にて上述の特異的バンドはアネキシンA6と同定された。一方、接着分子CADM1については、その細胞外切断後に細胞側に残るC末断片(CTF)については、上述の抗D体化アスパラギン酸抗体によるウエスタンブロットでは特異的抗体反応が検出されなかった。現時点で、CADM1切断産物のアスパラギン酸残基にD体化が生じているとの明確な証拠は得られていないが、CTFの一部(15アミノ酸長)を合成し、LC-MSにてアスパラギン酸残基のD体化の検出を試みる予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、圧負荷下の神経細胞においてCADM1の細胞外切断が亢進し、その結果として軸索に蓄積するCADM1-CTFのアスパラギン酸残基にD体化が生じるとの作業仮説を掲げていたが、本仮説を支持する実験データが得られる状況にはなっていない。しかしながら、CADM1に代わる、分子量約70 kDaの新規分子の同定へと実験は確実に進んでいる。一方、CADM1のD体化の可能性についても合成ペプチドを用いたLC-MS解析を計画しており、新展開が期待される。以上より、「概ね順調な進展」と判断した。
SDS-PAGEゲルのCBB染色にて明瞭に見出される分子量約70 kDaのバンド(質量分析にて分アネキシンA6と同定)を切り出し、in-gelトリプシン処理検体の液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS/MS)法(京都大学複合原子力科学研究所との共同研究)にてD体化アスパラギン酸残基の有無を検定したが、ファーストトライでは蛋白量が十分ではなかったので、神経細胞の培養を繰り返す予定である。また、CADM1のD体化については、アスパラギン酸残基が繰り返される領域をペプチド合成する計画である。
質量分析によって分子量約70 kDaの分子を同定実験が進行中であるが、その実施費用の支払いがまだ完了していない。CADM1においてD体化アスパラギン残基を検出する実験については次年度へと引き継がれるため、ペプチド合成、LC-MS解析などに相当額の支出が見込まれる。
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