緑内障や水頭症において病的内圧上昇は神経変性の一因と考えられているが、分子機序は未だ解明されていない。これまでに申請者らは、特殊な加圧装置を必要とせず且つ通常の培養環境において病的内圧相当の静的圧負荷が可能な細胞培養装置を開発し、圧力上昇に伴って神経接着分子であるCell adhesion molecule 1 (CADM1)の細胞外領域の酵素的切断(shedding)が亢進し軸索変性を惹起することを明らかにした。CADM1はsheddingされると細胞側にはC末断片(CTF)が残る。この断片は神経軸索内で凝集することが軸索変性の一因であることを見出した。CADM1 CTF はさらに酵素的に(γセクレターゼにより)切断されて、細胞内断片(ICD)(15アミノ酸長)が生じる。このICD内にはアスパラギン酸残基に富む領域があり、これらの残基にD体化が生じている可能性が考えられる。ICDを合成し、LC-MSにてアスパラギン酸残基のD体化の検出を試みたところ、室温でリン酸緩衝液中放置したICDにD体化が生じているとの所見が得られた。現在、病的内圧相当の静的圧を負荷した神経細胞において同様の解析を行い、同一のピークが検出されるかの実験を実施中である。 また、圧負荷による神経変性に寄与する分子としてCADM1以外のある分子を見出しており、現在論文投稿中である。その分子は圧負荷で網膜神経節細胞にて発現上昇し、眼圧上昇による自然発症緑内障マウスモデルにても眼圧と発現レベルとの間に相関性を見出している。
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