研究課題/領域番号 |
18K07051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀬戸口 留可 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (50415204)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫 / 感染 / ウイルス / 免疫記憶 |
研究実績の概要 |
抗原によって感作されたことのないナイーブCD8T細胞が外来抗原に反応し増殖した後、大部分が細胞死を起こす一方、少数のCD8T細胞が生き残り、メモリーCD8T細胞となる。これらの細胞群は生体内で一定の数で維持され、もう一度同じ抗原に遭遇した際、素早く効率的に免疫反応を引き起こし、宿主を感染性微生物から防御する。このような宿主防御能力が高いメモリーCD8T細胞の生体内における量的維持機構には、未だ明らかではない点が多い。 従来、CD4T細胞欠損マウスモデルの1つであるMHCクラスII (MHCII)欠損マウスにメモリーCD8 T細胞を移入するとメモリーCD8T細胞の数が減少するという報告から、CD4T細胞がメモリーCD8 T細胞の恒常性維持に重要であると考えられてきた。しかしながら、MHCII欠損マウス以外の様々なCD4T細胞欠損マウスモデルにメモリーCD8T細胞を移入すると、メモリーCD8T細胞の数の減少は観察されなかった。すなわち、メモリーCD8T細胞の数の減少はMHCII欠損マウスでのみ観察されることから、CD4 T細胞ではなくむしろMHCII分子の欠損により、本来MHCIIを発現する抗原提示細胞の機能異常が引き起こされ、その結果メモリーCD8T細胞の恒常性が破綻すると考えられた。MHCII欠損マウスでは炎症性サイトカインの発現が亢進しており、かつメモリーT細胞ではIFNによって誘導される分子群の発現上昇が観察された。この炎症性サイトカインがメモリーT細胞の恒常性破綻の原因かを検討したところ、この炎症性サイトカインの持続的シグナルによりメモリーT細胞の恒常性が破綻することが明らかになった。また、MHCII欠損による炎症性サイトカインの上昇は大腸において顕著に観察され、腸内細菌依存的に誘導されることが無菌化したMHCII欠損マウスの実験により明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、MHCII欠損マウスにおいて炎症性サイトカインIFN-gammaの産生が亢進しており、この持続的IFN-gammaシグナルによって、CD4 T細胞欠損とは無関係に、メモリーCD8 T細胞の恒常性が破綻することを明らかにした(論文投稿準備中)。さらにIFN-gammaシグナル下流の主要な転写因子STAT1の活性化型変異であるR274Wを抗原特異的CD8T細胞にレトロウイルスベクターを用いて導入し、メモリー期における細胞数を解析した結果、R274Wを導入したCD8T細胞の数は対照群と比べて減少していた。このことから、IFN-gammaシグナルは他の細胞を介さず、直接的にメモリーCD8T細胞の恒常性を破綻させることが示された。 一方、MHCII欠損によってIFN-gamma産生が亢進するメカニズムを解明するために、MHCII欠損背景のIFN-gammaレポーターマウスを解析した。その結果、MHCII欠損によってIFN-gamma産生亢進している細胞集団は、大腸のCD8T細胞およびgroup1 ILCであることが明らかになった。この結果からMHCII発現細胞によるCD8T細胞またはgroup1 ILCの活性化抑制機構の存在が示唆された。樹状細胞特異的にMHCIIを欠損するマウスを用いた解析により、このMHCII発現細胞によるIFN-gamma産生抑制は、樹状細胞以外のMHCII発現細胞によっても誘導されることが示された。また無菌化したMHCII欠損マウスの解析から、IFN-gammaの産生亢進は腸内細菌依存的に誘導されることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、炎症性サイトカインIFN-gammaがメモリーCD8T細胞恒常性破綻の原因であること、および持続的IFN-gammaシグナルはメモリーCD8T細胞にとって外因的に作用している(他の細胞を介して作用している)のではなく、内因的に作用している(メモリーCD8T細胞に直接作用している)ことを明らかにできたが、持続的IFN-gammaシグナルがどのような分子機構によってメモリーCD8T細胞の恒常性破綻を誘導するのかは明らかではない。この恒常性破綻のメカニズムを解明するためには、持続的IFN-gammaシグナルへの感受性に関してメモリーCD8T細胞という集団の中にheterogeneityが存在するのかを明らかにし、どのような分子機構によりメモリーCD8T細胞の恒常性破綻が誘導されているのかを決定していく必要がある。そのためにはsingle cell RNA-seqによる遺伝子発現解析を行う必要があり、この解析により、メモリーCD8T細胞全体が持続的IFN-gammaシグナルにより影響を受けるのか、一部のメモリーCD8T細胞亜集団だけが影響を受けているのかを明らかにし、さらなる分子メカニズムの解明を進められると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に理化学研究所から東京大学に異動し、さらにコロナ感染蔓延によって出された緊急事態宣言のため、論文投稿に遅れが生じたため。次年度使用額は論文投稿やリバイス実験の費用として使用する予定。
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