研究実績の概要 |
本研究では、若年期に受けた2Gyの電離放射線(γ線)の単回全身照射による急性期の障害性からの回復後に惹き起こされる白血病を含む遷延性病変の発症機序をなすと考えられる細胞生物学的にこれまでに得てきた知見の分子基盤を、特に末梢血中のエクソソームRNAに焦点をあてて、明らかにすることを企図していた。 これまで、若齢期に単回の2Gyのγ線を全身照射した18ヶ月齢のマウスと非照射対照群とからそれぞれ分離保存していた骨髄細胞から抽出したエクソソームRNAを解析し、両群で明らかに発現量の異なる一連のsmall RNAsを分離解析している。昨年度は、いわゆるがん抑制遺伝子とされるBrms1l (BRMS1 like transcriptional repressor)のエクソン中に存在する新規エクソソームRNAが単離され、照射群において、Brms1lの遺伝子発現は低下していたことから、照射群でのがん抑制作用の低下状態が反映されたものと考えた。本年度は、さらに、非照射対照群では高い発現をするが、照射群では発現がなくなる新規マイクロRNAを同定した。それらのターゲット配列には、脱ユビキチン化酵素のUsp28, serine/threonine kinase のPrkd3, ヒト卵巣癌において癌細胞の生存や薬剤耐性獲得に関わる転写因子のPou4f2, ヒトT細胞急性リンパ芽球性白血病発症の中心的役割を担うとされる転写因子のTal1など、いわゆるがん遺伝子として知られる候補遺伝子が含まれている。照射群においては、これらの標的遺伝子が活性化され、発がんやその後の増殖に寄与していることが想定される。今後は、これまで得られた知見をもとに、別途解析を進めている末梢血由来の週齢特異的なエクソソームRNAの解析とも比較検証することで、白血病を含む遷延性病変の発症のより詳細な機序解明を図りたい。
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