リケッチア感染症の病態モデルは極めて限定的であり,病態機序の解明のため,in vivo, ex vivo,in vitro感染実験を行い,個々のデータを有機的に結合,外挿することにより,ヒト生体内での発病環境に近い条件の検討,重症度を規定する因子,機序を明らかにすることを目的とした。 日本国内で発生する主たるリケッチア感染症は,つつが虫病と日本紅斑熱である。つつが虫病の原因となるOrientia tsutsugamushiは,血清型により病原性が異なることが明らかになってきたが,患者が増加傾向にあり,死亡例も多い日本紅斑熱の原因菌Rickettsia japonicaをはじめとする紅斑熱群リケッチアのヒトに適用できる病態発現機序は不明のままであった。 本研究で対象とするリケッチア性病原体はいずれもBSL3施設を必要とし,R. japonicaは特定病原体にも指定されている。 しかしながら,2019年度末より始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックが継続したことにより,研究代表者が所属する施設においては新型コロナウイルスに関する業務が優先され,その他の研究が停止される状況が続いた。さらに2022年から研究代表者が管理運営責任をもつBSL3実験室にサル痘(Mpox)への対応が加わり,研究代表者は,BSL3実験室の責任者として,実験室利用研究者の調整,指導,その他施設内の横断的新型コロナウイルス対応の業務に対応したが,実験制限解除後,責任者として一般ユーザーを差し置いての自身の研究を優先することははばかられた。そのため,夜間や限られた時間をぬってR. japonica分離株をさらに複数種に増やしてシード作製とその品質を確認,野外調査によりマダニ材料を収集・保管することにより,定年にもあたることから本研究を後進にゆだねることとした。
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