令和2年度は、Bcor-ITD変異マウスから樹立した細胞株について分子生物学的解析を行った。 温度感受性変異SV40 largeT抗原を導入し不死化細胞として樹立した複数の線維芽細胞については、活性化X染色体のBCORが野生型か変異型かを確認し、種々の遺伝子について定量PCRを実施した。Bcor遺伝子の発現量は野生型発現株に比べ変異型発現株において高い傾向が認められた。さらにBcorの転写開始点付近に位置するCpGアイランドについて、バイサルファイトシーケンシングによるDNAメチル化解析を行ったところ、変異型発現株においてはDNAメチル化率が低いことが確認された。また、このメチル化率は培養温度条件(33℃培養および39℃培養)に差がないことが確認できた。このBcor発現増加とDNA低メチル化は、ヒト腎明細胞肉腫で認める特徴と一致し、Bcor-ITD変異がBcorプロモーター領域の修飾に関与する可能性を強く示唆する結果であった。 また、Bcor-ITDマウスからES細胞の作成を試みBcor-ITD変異を持つES細胞の樹立に成功した。それぞれのBcor遺伝子型を確認し、染色体検査により核型が正常であることを確認したのち、ES細胞を免疫不全マウスへ移植、奇形腫を作成してその多能性について検討した。ES細胞におけるBcorの遺伝子発現量は野生型と変異型で同程度であった。 本研究におけるマウスの作出は、受精卵へのインジェクションによるゲノム編集を行ったためにBcor-ITDと共に目的外のBcor機能喪失変異を有する細胞とのモザイクマウスとなってしまい、繁殖・維持に問題が生じたが、Bcor-ITD変異を有するES細胞の作成に成功したため再個体化を予定している。
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