研究課題
がんの転移において、転移先臓器で長年潜伏していたがん細胞が何をきっかけに覚醒・再増殖するのか、また解剖学的位置関係からは説明しにくい臓器に転移・再発する理由はなぜか、その詳細な分子メカニズムは未だ解明されていない。我々はこれまで、シグナル伝達アダプター分子Crkががんの増殖・接着・ 浸潤・転移の全てのステップにおいて重要な役割を果たしていることを見出した。本研究では、Crkによるエクソソームの多様性形成メカニズムを明らかにし、がん転移の臓器選択性とがん細胞の覚醒との関連性を解明する。当該年度は、マウスxenograftにおいて、エクソソームとがんの転移先臓器の親和性を解析するために、ヒト膀胱癌細胞から分離したエクソソームをPKH67で蛍光ラベルし、ヌードマウスの尾静脈から接種。一日後にマウスのどの臓器に取込まれているかを蛍光顕微鏡下で観察した所、野生型の膀胱癌細胞から分離したエクソソームは肺で検出されたが、Crkノックダウン細胞から分離されたエクソソームは検出されなかった。さらに、エクソソームを連続投与して転移先臓器をeducate(教育)した後(1日置きに2週間、計6回投与)、tdTomato-Luc2導入野生型膀胱癌細胞を尾静脈から接種し、一ヶ月後にIVIS spectrumで転移巣形成の有無を観察した所、野生型膀胱癌細胞由来のエクソソームでeducateしたマウスでは肺転移巣が形成されたが、Crkノックダウン細胞由来のエクソソームでeducateしたマウスでは形成されなかった。この結果は、Crkがエクソソームを介してがんの転移の成立と促進に寄与することを示す画期的なデータである。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、当初の予定通りに遂行されている。現在まで、特別な問題点や実験の遅れは生じていない。次年度以降も研究計画に沿って研究を遂行する。
今後は、Crk依存的エクソソームヘテロジェナイティー形成とがん細胞の覚醒との関連性を解析するために、種々の癌腫由来のがん細胞に細胞周期の進行をモニタリングするFucciベクターを導入後、高濃度BrdU処理によりがん細胞に細胞老化を誘導。その後、エクソソームを処理し、どのエクソソームがどの癌腫の休眠状態のがん細胞を覚醒(再増殖)できるかをタイムラプス蛍光顕微鏡下で解析する。覚醒前後のがん細胞は、 EMT、がん幹細胞、ヒストンメチル化関連分子に対する免疫染色を施行し、がん細胞の動態を解析す る。これらを、野生型およびCrkノックダウン細胞由来のエクソソーム間で比較し、Crkが制御するがん転移先臓器選択性とがん細胞覚醒化の全体像をパネル化する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (22件)
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