研究課題
がんの転移において、転移先臓器で長年潜伏していたがん細胞が何をきっかけに覚醒・再増殖するのか、また解剖学的位置関係からは説明しにくい臓器に転移・再発する理由はなぜか、その詳細な分子メカニズムは未だ解明されていない。我々はこれまで、シグナル伝達アダプター分子Crkががんの増殖・接着・ 浸潤・転移の全てのステップにおいて重要な役割を果たしていることを見出した。本研究では、Crkによるエクソソームの多様性形成メカニズムを明らかにし、がん転移の臓器選択性とがん細胞の覚醒との関連性を解明する。平成30年度と令和2年度の研究により、Crkはがん組織の多様性形成に関与すると共に、エクソソームを介してがんの転移の成立と促進に寄与することが明らかとなった。これは、アダプター分子が転移先臓器の環境を整備しがん転移を成立させることを示す画期的なデータである。これらの結果を受けて、当該年度はCrkを標的とする治療薬および阻害ペプチドの開発に従事した。阻害ペプチド配列は、Crkとシグナル伝達下流分子C3Gとの結合領域(C3Gの400-666アミノ酸配列。プロリンリッチ領域)をターゲットとし、さらに結合をブロックする比較対照としてこれらのプロリンリッチ領域(453-462, 540-549, 608-617)にそれぞれ2箇所の変異を導入したペプチドを合成した。これらのペプチドを肺がん細胞株A549、子宮頸がん細胞株HeLa、膀胱癌細胞株UM-UC-3に処理した所、いずれも1 microMの濃度で増殖抑制効果が認められた。これは、Crkとシグナル伝達下流分子との結合を阻害することにより、がん細胞の増殖のみならず、エクソソームを介したがんの浸潤・転移を抑制できる可能性を示した。
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Nature Biomedical Engineering
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