研究課題/領域番号 |
18K07062
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
佐藤 卓 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 講師 (40375259)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 全身老化 / インターフェロン / 脳内炎症 |
研究実績の概要 |
加齢に伴って生じる視床下部の神経幹細胞の減少や機能低下は、全身の様々な老化表現型を引き起こすことが示されており、これは脳内におこる炎症が原因と考えられている。本研究では、加齢に伴い脳内で非感染性に分泌されることが知られているI型インターフェロン(IFN)が、この生理的な脳内炎症を誘導する分子候補と考え研究を進めている。本研究では、この脳内IFNシグナルの全身老化への関与を明らかにすることが目的である。2019年度は、加齢に伴い脳内炎症を誘導する細胞集団として重要なミクログリアに着目し、当該細胞特異的にIrf2を欠損しIFNシグナル過剰を引き起こすマウスの作製に取り組んだ。マクロファージ特異的に遺伝子破壊を誘導しうる異なる3系統のCreリコンビナーゼ発現マウスと、独自に作出したIrf2-floxマウスを交配し、それぞれでIrf2fl/fl:Cre発現マウスを樹立した。これらのマウスから、脳ミクログリアをフローサイトメーターを用いて精製し、Irf2遺伝子発現を確認したところ、これら3系統のうち1系統のみでIrf2遺伝子発現低下と、IFN誘導性遺伝子発現亢進を認めた。現在同マウス系統のミクログリアの性状、及び脳内の様々な細胞の性状変化を詳細に解析するために繁殖中である。特に本研究では、当該マウスの脳が、加齢マウスの脳に似た表現系を示すかを明らかにする計画である。加齢個体の脳に特徴的な変化として、ミクログリアの形態変化(細胞体の増大、樹状突起の短縮)、アストロサイトの増加、神経新生の低下などがある。本年度は、このような特徴を観察するための免疫染色手法を確立した。例えば、ミクログリアの形態は特異的なマーカー分子であるIba1の免疫染色によって観察が可能であった。アストロサイトマーカーであるGFAPや神経幹細胞マーカーであるSox2の染色条件についても検討し、至適な染色条件を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の計画通り、ミクログリア特異的Irf2欠損マウスの作製を完了した。また、様々な条件検討を実施し、老化表現型を解析するための免疫染色手法を確立した。さらに、全身老化の中枢と考えられる視床下部の採取及び遺伝子発現解析が可能であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず本年度の知見を踏まえ、ミクログリア特異的Irf2欠損マウスから採取した脳ミクログリアを用いて網羅的遺伝子発現解析を実施し、加齢マウスの脳ミクログリアの遺伝子発現データと比較することで、当該欠損マウスの脳ミクログリアが加齢マウスミクログリアに類似の特徴を示すかを検討する。この結果から、マウスの脳ミクログリアの恒常性維持におけるIRF2、およびIFNシグナル制御の意義を示す。同様に、本年度も実施したミクログリアの形態、アストロサイトの増加、神経新生の低下、さらに神経機能への影響を検証するため、神経伝達の指標となるスパイン数の定量についても新たに取り組む。一方、本研究の重要な目的である全身老化への影響を検討するため、ミクログリア特異的Irf2欠損マウス、および神経特異的Irf2欠損マウスから視床下部を採取し、老化抑制ホルモンである性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gnrh)の発現レベルを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の検討において、前年度までに樹立したマウス系統から採取した細胞、組織の網羅的遺伝子発現解析などの受託解析に高額支出が考えられたため。
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