前年度に引き続き、翻訳領域における終止コドンをセレノシステインとして翻訳するタンパク群である25種類のセレノプロテインのうち、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、特にリン脂質に対する抗酸化作用を有し、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍にて過剰発現を示すGPX4のがん細胞における発現の意義について、分子生物学的手法を用いて解析を行っている。前年度はGPX4遺伝子のスタートコドン直後にCRISPR配列を設置し、GOX4遺伝子ノックアウト細胞株を樹立し、当該細胞にて細胞増殖の抑制、酸化ストレス蓄積による細胞死の促進作用を確認することができた。本年度は肝細胞がん細胞株にて同様の実験を行い、細胞株の増殖抑制および細胞死の促進を確認し得た。そこで、3’非翻訳領域に存在し、セレノプロテインのタンパク翻訳に必須なRNA配列であるSelenocysteine insertion sequence (SECIS)という特殊なステムループ配列の除去によるノックアウト細胞作製のため、SECIS配列の前後にCRISPR-Cas9を設置し、short deletionによるノックアウトを試みたところ、がん細胞株内に存在する2本のGPX4遺伝子のうち1本はshort deletionを起こすことができたが(=ヘテロ変異細胞)、2本ともにshort deletion を起こした細胞を得ることができなかった。これは、CRISPR-Cas9の効果である点突然変異に比べ、short deletionの効率が悪いためと思われるが、引き続きヘテロ変異細胞に別のCRISPR plasmid を導入するなどでして、ノックアウト細胞の樹立の樹立を試みる。
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