研究実績の概要 |
本研究は、SLE自然発症モデルマウスで確認された免疫グロブリン重鎖遺伝子座の再構成・転写異常に着目し、その原因となる遺伝子の同定に加え、自己免疫疾患における免疫グロブリン重鎖遺伝子座のエピジェネティクス機構を明らかにすることを目的としている。 これまで、免疫グロブリン遺伝子座の再構成については、縮重プライマーを用いたDegenerate PCR法(Nat Immunol. 5, 463, 2002)を用いて検討してきた。しかしながら、SLEモデルマウスで確認された遺伝子再構成異常の結果が、プライマーのターゲット配列中の変異等からくるPCR増幅効率への影響によるものではないことを明らかにするため、全ゲノムシークエンスを行った。 野生型マウス(C57BL/6)、SLEモデルマウス(NZB/W F1)に加え、SLEモデルマウスの両親であるNZB、NZWマウスの計4種のマウスについて全ゲノムシークエンンスを行なった結果、少なくともDegenerate PCRにおいてプライマーのターゲットとなる領域の配列にSNP等は確認されなかった。このことから、SLEモデルマウスにおいて、免疫グロブリン遺伝子領域に欠損・挿入等のゲノムレベルの変異がない上での再構成異常である可能性が示唆された。 一方、B細胞分化が免疫グロブリン重鎖遺伝子座の再構成異常へ与える影響を明らかにするために、野生型、SLEモデルマウスにおける骨髄細胞中のPre-pro-B、Pro-B、Pre-B細胞の割合を比較検討した。結果、野生型マウスと比較して、SLEモデルマウスではPre-B細胞の割合が低く、Pre-pro-BやPro-B細胞の割合が高い傾向が確認された。今後B細胞の各分化段階におけるアポトーシスの状況等も加え詳細に検討する。
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今後の研究の推進方策 |
SLEモデルマウスにおいて、遺伝子再構成後の転写にも異常が確認されていることから、pro-B細胞における免疫グロブリン重鎖遺伝子座のヒストン修飾状況についても今後明らかにしていく。具体的には、マウス骨髄細胞のリンパ球集団から、抗B220・CD19・IgM・CD43抗体を用いて、セルソーティングによりpro-B細胞を回収する。得られたpro-B細胞に対し、抗ヒストンH3K4me2抗体・H3K27me2抗体等を用いてクロマチン免疫沈降を行い、SLEモデルマウス、及び野生型マウス(C57BL/6)の免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるヒストン化学修飾状況について比較解析する。 さらに、遺伝子再構成が行われるpro-B細胞を中心に、野生型、SLEモデルマウス間のB細胞分化・成熟状況の詳細についても比較検討して明らかにしていく。具体的には、マウス骨髄細胞のリンパ球集団から、フローサイトメーターを用いてPre-pro B(B220+, IgM-, CD43+, CD19-)、Pro-B(B220+, IgM-, CD43+, CD19+)、Pre-B(B220+, IgM-, CD43-, CD19+)を分離し、それぞれの割合について野生型とSLEモデルマウス間で比較を行う。また、同時に、各B細胞におけるアポトーシスの状況についても7AAD(7-Amino-Actinomycin D)とAnnexin Vを用いて検討する。
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