研究実績の概要 |
本研究は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症・進展における胆汁酸、短鎖脂肪酸の役割の解明を目的としている。 胆汁酸の研究では、高脂肪・高コレステロール食投与モデルマウスの食餌に一次胆汁酸であるコール酸を添加することで、肝臓にNASHに特徴的な線維化が誘導されることを明らかにし、一次胆汁酸が肝臓の炎症と肝線維化進展の両方にリンクしていることを報告した(BBB, 2021)。このモデルマウスの肝臓に蓄積している脂質をラマン顕微鏡で解析したところ、肝細胞に蓄積している脂肪滴を構成する脂質の成分や、脂肪滴内のコレステロール分布が隣接する肝細胞で異なっていることがわかった(Sci Rep, 2020)。NASHでは中心静脈周囲の肝細胞間に線維化が進展することから、これらの肝細胞が含有する脂質の特徴について検討し、コレステロール蓄積との関連性を報告した(日本肝臓学会総会2020、徳島医学会2020)。また、肝胆道系のコレステロール動態はリゾリン脂質によって制御されていることを報告した(FASEB J, 2020)。 短鎖脂肪酸解析については肥満、2型糖尿病、NASHを自然発症するTSODマウスに各種オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、乳菓オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖)を投与し、ガラクトオリゴ糖の投与によって血糖値、尿糖、肝組織像が改善することを明らかにした(Int J Exp Pathol投稿中)。オリゴ糖は腸内細菌への好影響が指摘されているため、血中短鎖脂肪酸の変化が期待されたが、病態改善とリンクする短鎖脂肪酸の変化を捉えることはできなかった。考察の過程で、糞便中や盲腸内容物の短鎖脂肪酸組成と血中の短鎖脂肪酸組成との明確な関連性が証明されていないことがわかった。現在、本実験系で使用した個体の主要臓器と循環血、糞便中の短鎖脂肪酸組成の関連性の検討をすすめている。
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