研究課題/領域番号 |
18K07070
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松浦 恵子 大分大学, 医学部, 教授 (00291542)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 腎癌 / ノックアウトマウス / Hippoパスウェイ |
研究実績の概要 |
これまで腎淡明細胞癌(clear cell renal cell carcinoma: ccRCC)症例のアレイCGH法を用いた網羅的ゲノム解析を行い、予後不良なhigh grade ccRCCに特異的なゲノム異常として14番染色体の欠失(14q loss)が有意に高頻度であること、14q lossによって発現低下する遺伝子としてHippoパスウェイのcore componentであるSAV1遺伝子を見いだし報告してきた。また、これまで既にSAV1遺伝子の腎特異的ノックアウトマウスを作製し、腎臓での嚢胞形成と尿細管細胞の増殖能亢進と嚢胞上皮ならびに尿細管上皮細胞に大小不同などの核異型出現を認め報告してきた。 本研究は、ccRCCの発症と悪性化を忠実に模倣するモデルを作製する目的で、腎臓だけで癌抑制遺伝子VHLとSAV1の遺伝子がダブルにノックアウトされるマウスを作成する。さらに遺伝子欠失の時期が生後数週間たってから起きる誘導性のノックアウトマウスとする。癌の進行・進展の過程を忠実に再現できるモデルマウスの作製により、腎癌の発生から悪性化に至るメカニズムを解明するだけでなく、Hippoパスウェイをターゲットとした治療の有効性を証明することにより、真に予後不良な高悪性度腎癌の治療標的を明確し、モデルマウスを用いた治療法の評価系を構築することを目指す。 2018年度は、VHL単独、SAV1単独、VHLとSAV1のダブルノックアウトマウスを作成した。ホモノックアウトマウスは出生しないか、出生後すぐに死亡した。死亡したマウスの腎臓には嚢胞が散見された。ヘテロノックアウトマウスは、腎重量の低下をみとめたが、腎癌の発生は見られなかった。これらのことから、SAV1はVHLと同様に、腎発生に重要な役割を果たすことが示唆され、腎発生の要となる遺伝子の発見につながった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、これまでの研究ですでに作製されているSAV1を腎臓のみで欠失させるマウス (CDH16-Cre(-/-), SAV1(fl/wt))を、誘導性に腎尿細管プロモーター下にCreが発現するマウス(Six2-Cre(+/-)) (Jackson Lab.より購入)を用いて交配させ、SAV1ノックアウトマウス①を樹立した。同様にVHL(fl/fl)(Jackson Lab.より購入))とSix2-Cre(+/-)を交配させ、尿細管特異的にVHL遺伝子ノックアウトしたマウス②を樹立した。さらに①とVHL(fl/fl)との交配により、VHL, SAV1遺伝子のダブルノックアウトマウスを樹立した。Creが発現しないマウスをcontrolとし、腎重量の測定と形態(とくに腎嚢胞や腎癌の発生)を観察した。 その結果、SAV1ホモノックアウトマウスは出生数が少なく、また生まれても生後13週までには死亡した。その原因として、腎の発育不全が認められた。次に、VHLヘテロノックアウトマウスとSAV1ヘテロノックアウトマウスとのダブルノックアウトマウスを作成した。死亡率には影響なく、また肉眼的に明らかな腫瘍形成はみとめられなかった。しかし、1年後の腎重量の減少が認められた。これらの減少は、VHL単独のヘテロノックアウトマウス、あるいはSAV1単独のヘテロノックアウトマウスと比較するとさらに腎重量の減少が著明であった。ただし腎癌の発生にはいたっていない。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度に作成したノックアウトマウスについて、腎臓の組織学的変化、免疫組織学的解析による腎上皮細胞の増生能など詳細な検証を行うことにより、腎組織形成への遺伝子欠失の影響を調べる。 またSix2-Creではプロモーター領域に遺伝子変異が起きており、誘導が難しいことがわかったため、今後、SAV1単独、VHL単独あるいはSAV1/VHLダブルノックアウトマウスについて、Creの発現を誘導する系を新たに立ち上げる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度には、ノックアウトマウスの繁殖数が予想より少なかったため、PCR,マウス等物品費に係る予算が当初計画より少なかった。また旅費も当初計画より少なかった。 (使用計画) 2019年度には解析すべきマウスもそろってくる予定であり、物品費は使用できる。また結果の報告や資料収集のための旅費も2019年度に使用できる。
|