研究実績の概要 |
これまでの自らの研究により、成体においては、非炎症性環境でミエロイド系譜細胞が脳実質へと進入する際の経路として脈絡叢が重要であることが分かっている。これに対し、全身性炎症を惹起した場合には、頭蓋内の細胞としては脈絡叢間質のマクロファージが最初に応答し、近傍の間質細胞を刺激することを明らかにした。脈絡叢間質細胞は上皮細胞との間で、多彩なサイトカインを介して双方向的に刺激し合う。一方、脈絡叢を介して末梢の炎症が脳内に影響を及ぼす経路は、脳形成期の未熟な脳実質においては、頭部間葉からミクログリア前駆細胞が脳実質に進入する経路と共通する可能性がある。 そこで、ヒトでは新生仔マウスを用いて、炎症に応答する脳内サイトカイン変動の特徴を明らかにした。生後7日齢C57BL/6マウスを用い、実験群にはlipopolysaccharide (LPS)を0.75 mg/kg単回腹腔投与した。投与4時間後、24時間後に脳を摘出して領域に分割した。蛋白質を抽出し、15種類のサイトカイン濃度を同時イムノアッセイした。また、投与24時間後に全身灌流固定し、頭蓋と脳を含む凍結ブロックを作製して免疫染色を行った。その結果、大脳皮質と辺縁系で、LPS投与後に濃度上昇したサイトカインは6種類あり、CCL2, CXCL10, G-CSFは4時間後も24時間後も高濃度であった。脳内CCL2発現は軟膜・脳実質の血管内皮に認められた。以上より、新生仔では、全身性炎症に応答して上昇する脳内サイトカイン濃度の経時変化が成体とは異なると考えられる。新生仔脳のCCL2上昇は、成体に比べて長時間持続するのが特徴で、発現細胞が血管内皮である点も、脈絡叢・髄膜が主体をなす成体脳とは異なる。CCL2を介する血管内皮の免疫応答は、全身性炎症を脳に伝達する未熟脳に特有な機序を知る上で鍵を握る。
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