研究課題/領域番号 |
18K07079
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 亨 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (50334280)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝再生 / 肝臓機能 / 細胞外膜成分 / miRNA |
研究実績の概要 |
肝臓形成の初期段階でmRNA分解機構を抑制する遺伝子改変を施したマウスは、生後4週から8週にかけて重度の肝障害を示すが、生後12週以降のマウス肝臓の組織像は正常に近いものに戻る。肝細胞と非肝細胞を区別する蛍光標識を導入して細胞の分布を調べたところ、生後8週以降になると非肝細胞由来の蛍光物質を発現する細胞が数多く肝実質に観察された。その細胞は肝細胞に特徴的な転写因子をを発現していたので、非肝細胞が肝細胞に転換することで正常な肝臓に回復したと考えられた。 非肝細胞が肝細胞マーカーを発現し、肝細胞様の形態を示すようになった分子機構として、細胞外膜成分の作用に注目した。野生型と遺伝子改変マウスの血漿からエクソソームを調製し、マイクロRNAシークエンス解析を行った。その結果、遺伝子改変マウスの血漿エクソソーム内には、肝障害を持つ個体の肝臓内、及び血流中のエクソソーム内で高い発現を示すことが知られているマイクロRNAを含む様々なマイクロRNAの高発現を検出した。高発現を示したマイクロRNAが標的とする因子のgene ontology解析を行うと、様々な細胞、組織の形成に関わる因子が有意に含まれていることが分かった。一方で、遺伝子改変マウスの血漿エクソソームで野生型に比べて減少していたマイクロRNAの数は、増加してるマイクロRNAの4倍程度検出されたにも関わらず、標的とする因子に特定の傾向はみられなかった。従って、血漿エクソソーム内に優位に上昇しているマイクロRNAが、非肝細胞から肝細胞への変換を誘導している可能性を検討していく価値があると考えている。 また、肝細胞に転換する非肝細胞の候補として胆管上皮細胞が考えられたので、胆管上皮細胞を蛍光標識する遺伝子改変マウスを作製し、mRNA分解機構を抑制するマウス系統と交配を進めており、胆管上皮細胞が新生肝細胞になるかどうか確認する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令で、一定期間在宅勤務となり、研究に必要なマウス系統の十分な数を確保することが困難であった。マウス個体に阻害剤を投与する実験や肝障害を誘導する化合物投与による肝再生モデルの試行に関しては、計画通りに実施することができなかった。 その一方で、血漿からのエクソソーム調製と、エクソソーム内マイクロRNAの発現解析を実施することができた。野生型と遺伝子改変型で、有意な発現変動を示すマイクロRNA群の検出と、その標的因子の解析から有用な結果を得ることができた。 さらに、肝臓内の特異的な細胞を蛍光標識する遺伝子改変マウス、Cre組み換え酵素の誘導系を利用せずに肝細胞を標識することのできる遺伝子改変マウスの作製を進めることができたので、限られた研究期間の中では、進展があったということができる。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞に転換する非肝細胞の候補として胆管上皮細胞が考えられる。現在、胆管上皮細胞を蛍光標識する遺伝子改変マウスを作製し、mRNA分解機構を抑制するマウス系統と交配を進めている。障害を持つ肝臓が、再生によって回復していく過程で、胆管上皮細胞が新生肝細胞に変換するかどうか確認する予定である。 また、1個体中で胆管上皮細胞と肝細胞を異なる蛍光で標識する遺伝子改変マウスを作製し、肝障害時に誘導される肝再生において、肝細胞と胆管上皮細胞以外の細胞種がどのように関与しているのか解析していく予定である。 さらに、マウス個体内におけるエクソソームが肝再生にどのような効果を持っているか調べるために、細胞がエクソソームを放出するのを防ぐ阻害剤をマウスに投与し、新生肝細胞の出現と、障害を持つ肝臓から正常肝臓へ回復する過程抑制効果があるかどうかを調べる。 マウスから初代胆管上皮細胞を調製し、野生型、及び遺伝子改変マウスの血漿エクソソームを添加した時の細胞の変化を観察するための実験系を確立する。遺伝子発現や機能において、肝細胞の特徴を獲得するかどうか確認できるように、培養(培地の組成、その他添加物)の条件検討を行う。 その後、エクソソーム内のマイクロRNAにおいて、新生肝細胞の産生に重要な役割を果たしているものを探索し、そのマイクロRNA単独の効果を、人工エクソソームや目的マイクロRNAの遺伝子改変マウスを用いて調べることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言の発令によって在宅勤務期間が生じ、計画していた研究の実施が一部できなかった。 研究材料の調達にも遅延が生じるなど、困難があった。 次年度に、遂行できなかった研究を行う。
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