研究課題
メラノコルチン受容体(MCR)のうち、MC4Rは摂食抑制やエネルギー代謝、MC1Rは色素合成や抗炎症・免疫に関与しており、全体として肥満や生体防御異常に関わっている。本研究では、MC1Rの機能低下と膵発がんとの関わりを明らかにすることを目的としている。R3年度は、以下について検討を行った。昨年度解析した日本人膵がん症例の手術検体やゼノグラフト組織から樹立した培養細胞株及び連携研究者より入手した膵がん培養細胞株のSNPs解析結果と比較するため、連携研究者より供与された日本人胃がん患者腹水由来細胞株約50株のDNAについて、PCR法によりMC1R遺伝子を増幅して、ダイレクトシークエンス解析によりSNPs/点突然変異の有無を調べた。その結果、胃がんでは、日本人に多い2つのタイプのSNPs のうちの両方でホモ型が検出され、膵がんとはやや異なる部分が見られたが、一番多かったのは膵がんで多いSNPのホモタイプであった。変異型MC1Rの機能解析については、野生型MC1R遺伝子を有する正常膵管由来のヒト不死化膵管細胞株への遺伝子導入がなかなか上手くいかず、野生型MC1R遺伝子を有する膵がん細胞でMC1Rをノックアウトした細胞を作製し、変異型MC1R遺伝子を導入してその影響を検討中である。マウスモデルを用いた実験に関しては、マウス膵臓発がんモデルとMc1r変異を有するMc1r<e/e>マウスとの交配実験が継続中である。まだ途中経過ではあるが、雄では野生型で大きい腫瘍が多い傾向が見られており、膵がんの増殖にはMC1RではなくMC4Rの阻害が重要である可能性があると考えられる。
3: やや遅れている
ヒト正常細胞及びがん細胞への遺伝子導入に手間取り、機能解析が遅れている。マウス実験では、新型コロナ感染拡大による影響で、繁殖数を思うように増やすことができなかったため、また、生まれるジェノタイプにバラツキがあったため、時間がかかっている。
ヒト正常膵管由来細胞株や膵がん細胞株に変異型MC1R遺伝子を導入して高発現させた細胞の機能解析を行う。MC1R機能低下型変異を有するマウスを膵発がんモデルマウスとの交配実験を完了し、MC1R機能低下が発がんや浸潤・転移に及ぼす影響を明らかにする。また、Mc1r変異を有するマウス膵臓腫瘍から樹立したがん細胞株と野生型マウス由来のがん細胞株との遺伝子・タンパク質発現の比較を行う。
正常膵管細胞株への遺伝子導入に手間取り、新型コロナ感染拡大による影響もあり、機能解析や動物発がん実験の完了が遅れているため、予定より支出が少なかった。変異型MC1R遺伝子導入細胞の機能解析や、継続中の当該受容体変異マウスと膵臓発がんモデルマウスの交配による発がん実験の完了まで、もうしばらく費用が必要となることから、これらの研究計画の完遂のために繰り越し分を充てる計画である
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)
Cancer Sci.
巻: 112 ページ: 2454-2466
10.1111/cas.14899
Cancer Genomics Proteomics
巻: 18 ページ: 407-423
10.21873/cgp.20268
Int. J. Mol. Sci.
巻: 22 ページ: 13620
10.3390/ijms222413620
癌と化学療法
巻: 48 ページ: 1429-1434