これまでにTrypanosoma cruzi 感染細胞では宿主アポトーシスおよびオートファジーが抑制されることを明らかにし、トランスクリプトーム解析により感染宿主細胞の遺伝子発現を解析した。その結果、アポトーシス経路が有意に抑制され、またNF-kB経路が活性化されることがわかった。昨年度はヒト繊維肉腫由来HT1080細胞を宿主としてT. cruziを感染させたが、今年度は宿主細胞を変えて実験をおこなった。 ヒト単球由来培養細胞THP-1にT. cruziを感染させ、一定時間後に細胞からRNAを抽出し、RNA-Seq解析を行った。原虫感染により発現が変動した遺伝子を発現差解析により抽出し、パスウェイ解析ソフトを用いて解析した。HT1080細胞を用いた時に、感染3時間で生体防御に関連するサイトカイン等の遺伝子発現上昇がみられたため、THP-1細胞でも同様の結果が期待された。しかし、THP-1細胞では感染数時間後であまり変化がみられず、感染24時間以降にサイトカイン等の発現上昇が認められた。T. cruzi感染でNF-kB経路が活性化されるという報告があり、今回のは先行研究を支持する結果となったが、細胞により活性化される時期が異なることが示唆された。 宿主アポトーシスはTHP-1細胞でもT. cruzi感染により抑制される傾向がみられ、オートファジー関連遺伝子については、発現変化はほとんどみられなかった。オートファジーは転写による制御ではなく、オートファジー関連分子の局在変化、機能変化による制御がはたらいている可能性が示唆された。アポトーシスとオートファジー両方に関連する分子について発現を解析中である。
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