研究課題
マラリア原虫のメロゾイトによる赤血球への侵入は、感染赤血球からの脱出、新しい赤血球への接着、先端部の方向転換、寄生胞を伴う侵入、侵入後のステージ転換などのステップからなる複雑な現象である。本研究では、メロゾイト形成に関わる転写因子の標的遺伝子解析から侵入機構の全貌を明らかにすることを目的とする。昨年度から本年度にかけて、ヒトの病原体である熱帯熱マラリア原虫におけるCRISPR/Cas9の開発に成功した。そこで、本年度は、熱帯熱マラリア原虫のメロゾイト形成に関わるAP2転写因子の解析を行うこととした。データベースから探索を行った結果、昨年度に解析を行ったネズミマラリア原虫メロゾイト形成期に発現するPbAP2-Mの相同遺伝子であるPfAP2-M遺伝子の他、データベース上でメロゾイト形成期に転写が起きているその他の3つのAP2転写因子(AP2-I、AP2-M2、AP2-TSと名付けた)を選択した。新しく開発した熱帯熱マラリア原虫のCRISPR/Cas9を用いて、それら4つのAP2のGFP融合株を作出した。GFPの発現時期解析を行った結果、AP2-I、AP2-M、AP2-M2、AP2-TSの順番に発現が見られた。続いて、それぞれのGFP発現株を用いて、抗GFP抗体を用いたChIP-seq解析による標的遺伝子解析を行った。その結果、4つのAP2の標的遺伝子は多くが重複しているが、少しずつ結合モチーフを変えることで、発現制御する遺伝子を少しずつ変えていくことが明らかになった。赤血球侵入に重要な先端部小器官の遺伝子は、マイクロネーム、ロプトリー、デンスグラニュールの順番に発現していくことが分かり、4つのAP2を順番に使い分けることによって、これらの遺伝子の発現順序を厳密に制御することがメロゾイト形成に重要であることが示唆された。多数の機能未知遺伝子も発見したことから、赤血球侵入関連因子の解析に十分な情報を得た。
2: おおむね順調に進展している
昨年度から本年度にかけて、ヒトの病原体である熱帯熱マラリア原虫におけるCRISPR/Cas9の開発に成功したため、熱帯熱マラリア原虫での解析に計画を変更した。その結果、少し時期をずらして発現する複数のAP2転写因子の存在を明らかにした。これらのAP2のChIP-seqも終了し、メロゾイト形成における転写制御の統合的理解が進むことが期待される。また、赤血球侵入関連因子の候補としての機能未知遺伝子を多数得ることに成功したため、順調に進展していると考える。
本年度では、ChIP-seq解析の詳細を検討することはできなかったため、メロゾイト形成に関わることが予想される4つのAP2転写因子の標的遺伝子をバイオインフォマティクス解析によって比較する。標的遺伝子に機能アノテーションを付与し分類する。gene ontologyなど他の解析結果とともにデータベース化し、各転写因子発現時期と標的遺伝子を対応させることでメロゾイト形成原理を理解するための新たなプラットフォームを構築する。また、メロゾイト形成もしくは赤血球侵入過程に重要な未知遺伝子について、GFP融合株とコンディショナルノックアウト株の作出を行い、機能解析を行う。
昨年度は、モデル生物であるネズミマラリア原虫を主に解析していたが、ヒトの病原体である熱帯熱マラリア原虫におけるCRISPR/Cas9の開発により、熱帯熱マラリア原虫での解析に着手した。そのため、動物実験に関わる費用が減少した。そのために残予算が生じた。
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mBio
巻: 11 ページ: e03146-19
10.1128/mBio.03146-19.