マラリア原虫のメロゾイトによる赤血球への侵入は、感染赤血球からの脱出、新しい赤血球への接着、先端部の方向転換、寄生胞を伴う侵入、侵入後のステージ 転換などのステップからなる複雑な現象である。本研究では、メロゾイト形成に関わる転写因子の標的遺伝子解析から侵入機構の全貌を明らかにすることを目的とする。本年度は、昨年度にChIP-seqを行ったPfAP2-Mの標的遺伝子の転写解析を行った。ChIP-seq解析の結果、AP2-Mの特異的結合モチーフはGTGCACもしくはTGCATGであることが示唆された。そこで、結合モチーフが上流に存在する標的遺伝子(ロプトリー遺伝子の一つ)の発現パターンと結合モチーフ配列の重要性を調べるために、標的遺伝子の上流配列を用いたmCherry遺伝子レポーターアッセイを行い、転写因子と結合モチーフの相互作用がメロゾイト形成に必要なロプトリー遺伝子の転写活性化に重要であることを明らかとした。熱帯熱マラリア原虫のAP2-M(PfAP2-M)の標的遺伝子や結合モチーフは、初年度に解析したネズミマラリア原虫のPbAP2-M遺伝子のそれらと高い相同性を持つことから、メロゾイト形成はPlasmodium属に高く保存された機構であることが示唆された。今後は同じくシゾント期に発現する3つのAP2の結合モチーフや標的遺伝子との詳細な比較解析を行っていくことで、メロゾイト形成における遺伝子発現機構の基本原理の理解を目指す。加えて、新規侵入関連因子の機能を明らかにしていくことで、赤血球侵入機構の全貌解明につながることが期待される。
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