研究課題/領域番号 |
18K07085
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉川 尚男 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (50191557)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブラストシスチス / 原虫 / 寄生虫 / 人獣共通感染性 / ズーノーシス / 疫学 |
研究実績の概要 |
腸管寄生原虫ブラストシスチスは、ヒトから検出される最も頻度の高い寄生虫であり、人獣共通感染性と想定されてきた。しかし、我々の糞口感染地域に住む児童らの予備的調査では人獣共通感染性が見られなかった(Yoshikawa et al. 2016, Parasitol. Int. 65:780-784)。 本研究では、インドネシアの糞口感染地域の住民と、その住民が保有している家畜動物、ならびに住民の家屋内で捕獲した野ネズミ等から得た糞便材料から直接抽出したDNA材料を使い、ブラストシスチスの人獣共通感染性について再検証した。 本研究材料は、糞口感染性の寄生虫がまん延している地域に住む住民とその家畜動物、ならびに家屋内の野ネズミ等の新鮮な糞便材料から直接抽出したDNAである。そのため、ブラストシスチスが人獣共通感染性であるならば、住民・家畜動物・家屋内の野ネズミ等の糞便汚染により住民と動物から遺伝的に同じブラストシスチスが検出されるはずである。今回、家屋内で捕獲された野ネズミ由来のブラストシスチスを調べたところ、サブタイプ4のみが検出された。一方、住民の児童からはサブタイプ1,2,3が検出されており、住民が感染していたブラストシスチスと同じサブタイプは野ネズミからは検出されなかった。さらに、家畜動物のブタ、ニワトリ、ヤギ、水牛などを調べた結果、ブタからサブタイプ5、ニワトリからはサブタイプ6と7、ヤギからはサブタイプ1と5が検出され、水牛からは何も検出されなかった。一方、住民からは予備調査と同様に、サブタイプ1,2,3が検出された。住民が感染していたサブタイプと同じサブタイプ1が、ヤギからも検出されたため、これが同じブラストシスチス由来であるかどうかについて、現在遺伝子のシークエンス解析を行って詳細に調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定以上に、研究成果が出ており、その一部は、国際雑誌に掲載されている。 また、それ以外の研究成果は、昨年10月にコロンビアで開催された第二回国際ブラストシスチス会議で報告し、高い評価を得た。 さらに同じ疫学調査で共同研究を行っている他機関との共著論文を国際雑誌に二編発表している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、住民とヤギの両方から検出されたサブタイプ1のブラストシスチスの由来について、引き続きシークエンス解析による詳細な解析を行い、このサブタイプ1が人獣共通感染性であるかどうかについて議論を進める計画である。 さらに、他の動物に感染していたサブタイプについてもシークエンス解析を行い、糞口感染により住民に同じブラストシスチスが伝播していても感染が成立せず、動物由来のブラストシスチスがヒトには感染しずらいことを示す計画である。 これらのことが明らかとなれば、ブラストシスチスの人獣共通感染性は、ある特定のサブタイプにのみ見られるのか、あるいは人獣共通感染性は非常に低いと判断され、従来の定説を覆す可能性がある。
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