研究課題/領域番号 |
18K07085
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉川 尚男 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (50191557)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブラストシスチス / 人獣共通感染性 / サブタイプ / 感染伝播 |
研究実績の概要 |
本研究は、住民とその家畜動物の間で高率に糞口感染が生じている地域の疫学調査により得られたDNA材料により、ブラストシスチスの人獣共通感染性について再検証することである。 前年度の成果から、住民から検出されるブラストシスチスのサブタイプ(ST)は1,2,3であり、家畜動物のブタからST5、ニワトリからはST6, 7、ヤギからはST1, 5が検出され、水牛からは何も検出されなかった。今年度は、これらのSTについて、サブクローニング法のシークエンス解析により住民と家畜動物を比較した。住民とヤギから検出されたST1について、各DNA材料から5クローンずつ塩基配列を解読した結果、ヤギの4種類の材料から得られた合計20クローンのST1には、遺伝的に異なるST1Aが2クローン、ST1Cが18クローン検出された。一方、住民からは9人のDNAからは全て同じST1Cが45クローン検出され、残り1名の住民からの5クローンは全てST1Aであった。この結果は、住民の9割がST1Cのみ感染しており、残りの一名はST1Aのみ感染していたことを示している。一方、ヤギの4種類の糞便材料中の2種類からST1Aが1クローンとST1Cが4クローンずつ検出され、残りの2種類からはST1Cのみしか検出されなかった。住民10名からのDNA材料からは遺伝的に異なるST1AとST1Cの混在が検出されなかったことから、ヤギのST1AとST1Cの混在はヒト由来の可能性が高いと想定された。一方、ヒトからはST5やST1AとST1Cの混合感染例が検出されなかったことから、ヤギやブタの糞便汚染により住民にブラストシスチスが感染伝播していても、ヒトの体内では容易に生存・増殖できないと想定された。従って、ブラストシスチスの人獣共通感染性については、ヒトから特定の家畜動物、今回ヤギにST1が感染伝播しうる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各DNA材料から感染していたブラストシスチスのSTを、我々が開発した特異的プライマーにより同定し、かつ異なったSTの重複感染が高率に検出されたが、このプライマーにより単独のSTの遺伝子増幅が可能となり、ST内の遺伝的多様性をサブクローニング法のシークエンス解析により調べることが可能となった。その結果、ヤギと住民の両方から同じST1内に遺伝的に異なるST1AとST1Cを検出することができた。このような方法により、複数の異なるSTの混合感染が当たり前である糞口感染地域から得られたDNA材料でも詳細な遺伝的解析が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
腸管寄生原虫ブラストシスチスは、ヒトから検出される最も頻度の高い寄生虫であり、世界中で様々な遺伝的に大きく異なる多種類のサブタイプ(ST)のブラストシスチスがヒトや動物から見つかっている。本研究の成果として、特定の動物に感染しているSTに偏りが見られているだけでなく、同じST内に、遺伝的に異なるブラストシスチスの存在が今回ヤギと住民のST1の解析結果から想定された。従来は、同じSTは同一という概念であったが、今回の成果は、ST内の詳細な遺伝的解析の必要性を示しており、ST1以外のSTについても詳細な遺伝的解析を行い、ブラストシスチスが生息しうる動物種との関連性を明らかにしたいと考えている
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