ブラストシスチスは、ヒトをはじめとして多種多様な動物の消化管内に生息している。形態的特徴から分類・区別することが困難なことから、本研究者が遺伝子情報による分類を提唱し、ヒトに感染する本生物は遺伝的に異なる9種類のサブタイプに分類されている。一方、様々なヒト以外の動物にも同じサブタイプが感染しており、人獣共通感染性と考えられてきた。しかし、我々が様々な動物から分離した株の遺伝子を詳細に解析した結果、多くの場合は、同じサブタイプ内でも、ヒト由来株と動物由来株では、遺伝的に異なっている場合がほとんどである。 そこで、今回、生活環境が整っておらず、ヒトや動物の糞便汚染により様々な腸管寄生性の原虫類が高率に蔓延しているインドネシア・スンバ島の住民とその家畜動物の糞便由来のDNAを用い、体内で増殖していると想定できたDNA量のブラストシスチスについて詳細に比較検討した。その結果、現地の住民と家畜動物であるヤギとの間で、遺伝子上で同じ生物由来と思われるブラストシスチス・サブタイプ1が検出された。さらに、ヤギには、ブタに最も感染するサブタイプ5も検出されたが、ブタ由来のサブタイプ5とヤギ由来のサブタイプ5とは、DNA配列が大きく異なり、分子系統学的にも離れており、異なる生物由来と考えられた。このように、サブタイプ1がヒトとヤギの間で感染伝播することが初めて確認された。さらに、ヤギとブタでは、遺伝的に異なるサブタイプ5のブラストシスチスのみが感染していたことから、宿主特異性の性質を持つことも初めて確認された。
|