研究課題
本研究の目的は、サルマラリア原虫Plasmodium knowlesiのヒト感染者の重篤化に関与するP. knowlesi感染赤血球の接着機構を明らかにするため、ヒト血管内皮細胞に結合する原虫由来の接着分子を同定することである。平成30年度において、本原虫ゲノムに約100個コピーされているSICAvar遺伝子のうち1つが接着性P. knowlesi原虫で特異的に高発現していることが明らかとなったため、このSICAvar遺伝子について遺伝子導入により強制発現する組換え原虫を作製した。令和元年度では、まずこの組換え原虫について、付与したエピトープタグ配列のMycに対する抗体を使用してウェスタンブロッティング及び免疫染色法による光顕観察を行い、目的のSICAvar遺伝子が発現していることを確認した。次に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に対する接着実験を行ったところ、組換え原虫は野生株に比べて有意に高い接着性を示した。そして、これまでに得られた接着性P. knowlesi原虫とは別の接着性原虫を得てどのような原虫分子が特異的に高発現しているのかを確認するため、HUVECに対する接着実験を繰り返したところ、新規の二つの接着性P. knowlesi原虫を選抜することができた。そこで、接着実験前の非接着性P. knowlesi原虫及びこれら二つの接着性原虫を同調培養後に回収してRNA-seqを行い、得られた遺伝子配列についてトランスクリプトーム解析を行った。このことから、これら二つの接着性P. knowlesi原虫は最初に得られた接着性原虫と同一のSICAvar遺伝子を特異的に高発現していることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
接着性P. knowlesi原虫で特異的に高発現しているSICAvar遺伝子は、接着現象に関与すると考えられる。このSICAvar遺伝子を強制発現する組換え原虫が、有意にヒト血管内皮細胞に接着することが確認できた。そして新規の二つの接着性P. knowlesi原虫を選抜し、約100個のコピーのうち上記と同一のSICAvar遺伝子を特異的に高発現していることが分かった。この接着に関与すると考えられるSICAvar遺伝子について、現在リコンビナントタンパク質を作製し、実際にヒト血管内皮細胞のレセプターに対して結合するのか、そしてこのリコンビナントタンパク質のうちどのドメインが結合に関与するのかを調べるために次の段階の実験に進むことが可能となっている。
今後の予定として、接着性P. knowlesi原虫で特異的に高発現しているSICAvar遺伝子のリコンビナントタンパク質を用いて、HUVECに対する結合実験を行う。結合が確認できた場合は、このリコンビナントタンパク質のうちどのドメインがHUVECのレセプターへの結合に関与するのかを調べるため、より小さい領域でのリコンビナントタンパク質をさらに作製し網羅的に解析を行う。このようにしてどのドメインが結合に関与しているのか確認できた場合は、そのリコンビナントタンパク質に対する抗体を作製し、レセプターへの結合の阻害実験を行う。また、可能であればHUVECのレセプターの同定を目的として、リコンビナントタンパク質に付与したGSTタグを利用してプルダウンアッセイを行う。
参加及び発表予定としていた寄生虫学会大会は開催時期が次年度となったため、使用予定としていた旅費や大会参加費を次年度に使用することとした。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Neurology
巻: 92 ページ: e2364-e2374
10.1212/WNL.0000000000007505