本研究の目的は、サルマラリア原虫Plasmodium knowlesiのヒト感染者の重篤化に関与するP. knowlesi感染赤血球の接着機構を明らかにするため、ヒト血管内皮細胞に結合する原虫由来の接着分子を同定することである。 令和元年度までに、本原虫ゲノムに約100個コピーされているSICAvar遺伝子のうちの1つが接着性P. knowlesi原虫で特異的に高発現していることを明らかにし、この遺伝子について強制発現する組換え原虫を作製した。そして、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に対する接着実験を行ったところ、野生株に比べ有意に高い接着性を示すことが分かった。また新たに二つの接着性P. knowlesi原虫を選抜し発現遺伝子について調べた結果、先の接着性P. knowlesi原虫と同一のSICAvar遺伝子を特異的に高発現しており再現性が見られた。 そこで令和2年度では、まずP. knowlesi感染赤血球の接着に関与すると考えられるこのSICAvar遺伝子のリコンビナントタンパク質を作製し、HUVECに対する結合実験を行ったところ、HUVECに対する高い接着性が確認できた。このタンパク質は複数のドメインにより形成されているが、そのうちどのドメインがHUVECのレセプターへの結合に関与するのか調べるため、より小さい領域でのリコンビナントタンパク質をさらに作製し、網羅的にHUVECに対する結合実験を行った。その結果、ある2つのドメインから成る領域が他のドメインに比べ有意に高い接着性を示すことが明らかとなった。ただし、作製した組換え原虫及びリコンビナントタンパク質の配列の一部に誤りが見つかったため、修正を行い実験の再確認を行っている。
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