研究課題
本研究は、マウス赤血球型マラリア感染時における記憶B細胞の生存維持の場の可視化とそのサブセットの同定を目的としている。私たちは、IFNgを産生する細胞が蛍光タンパク質であるVENUS(GFPの改良型)を発現するように設計されたマウスに赤血球型マラリアを感染させる実験系により①赤血球型マラリアに対する免疫応答が主に脾臓で起きていること、②リンパ節や骨髄では免疫応答はほとんど起きていないという結果を得ました。また一度感染し回復したマウスでは、二度目の感染に対して中和抗体の産生を伴う強い免疫記憶が誘導されることも知られています。そこで本研究では、MSP-1、2やPfEMP1等の抗原性の強いマラリア抗原を蛍光色素で標識し、記憶B細胞がどこに維持され、どのサブセットが赤血球型マラリア感染防御に主に働いているかを同定します。昨年、群馬大学大学院医学系研究科生体防御学講座よりGFP蛍光タンパク質とチキンのアルブミン(OVA)人工染色体として導入した赤血球型マウスマラリアを譲渡していただき赤血球型マラリアをマウスの生体内で可視化する系を立ち上げました。本年度は、実際にIFNg-VENUSマウスにOVA特異的TCRを発現するTCR-Tg(OTーI、OT-II)マウスのT細胞を嫡子移入したマウスに、OVA-GFP-P.yoeliiを感染させ、IFNgを発現する細胞とOTーI、OT-II T細胞の免疫応答を時系列で検出しました。またOVA-GFP-P.yoelii特異的な抗体を検出するためにP.yoeliiの粗タンパク抗原とOVAを抗原としてELISA法で検出を試みました。次にOVA-GFP-P.yoeliiの感染から回復したマウスに二度目のOVA-GFP-P.yoeliiを感染させ、免疫記憶の応答(二次応答)をELISA法で検出を試みました。
3: やや遅れている
この研究がやや遅れ気味である理由は、以下の通りです。1. 大きな台風の停電の影響を受け、使用予定であった十分な数のIFNg-VENUSマウスが準備できなかったため、数回の予定の感染実験が組むことができませんでした。2. OVA-GFP-P.yoeliiを感染させたマウスの血清の抗体化を測定したところOVAに対する免疫応答が非常に弱く、再度OVA-GFP-P.yoeliiの感染でも非常に弱い応答しか検出できませんでした。OVAに対する応答をポジティブコントロールに置く予定であったが、OVAにCY5色素でラベルしたプローブでは特異的なB細胞を検出できませんでした。以上の事案によりOVA-GFP-P.yoelii感染における抗原特異的な記憶B細胞のラベリングまで進んでいません。
本研究では、マウス赤血球型マラリア感染時において誘導される記憶B細胞が;(1)どこで維持されているのか?(2)どのようなサブセットであるか?(3)赤血球型マラリア抗原特異的な記憶B細胞を検出・抽出するシステムの開発を試みることです。免疫記憶による二次応答は、記憶T細胞と記憶B細胞の細胞間の相互作用が必須であることが知られていることから、主な赤血球型マラリアに対する免疫記憶は脾臓で維持されていると期待されますが、ほかの抗原を用いた研究では、骨髄が主な記憶B細胞の存在場所とされています。同じように長期生存型プラズマ細胞は、教科書的にも骨髄で維持されていると記載されています。次年度は、今年度のOVA-GFP-P.yoelii感染実験において、OVA-GFP-P.yoeliiの二次感染時に赤血球型マラリアは3日以内に排除されたことを確認しています。これは、初期感染時にOVA-GFP-P.yoeliiに対する免疫記憶が確立したことを示しています。二次感染後は、弱いながらもOVAに対する抗体価を検出していることから二次感染後のマウスを用いてかつ、OVA-GFP-P.yoeliiから抽出した粗タンパクのまま蛍光色素で標識し、記憶B細胞がどこに維持され、どのサブセットが赤血球型マラリア感染防御に主に働いているかを同定します。また、どこで維持されているのか? ど のようなサブセットであるか?という問いに対しては、どの組織・臓器に記憶B細胞の表現系を持つ細胞が 増加しているかをフローサイトメトリー、免疫組織染色法を用いて解析します。また、IFNg産生細胞とOVA特異的T細胞の分化を検出し、常にOVA抗原との対比をしながらマラリア感染時における免疫応答の可視化を試みます。
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