研究課題
クルーズトリパノソーマが引き起こすシャーガス病は、感染を維持しながら長い無症状期(数年~数十年)を経て慢性期へと移行し最終的に患者を死に至らしめる。しかしながら、なぜ長期間排除されずに感染し続けるのかは全くわかっていない。本研究は、申請者らが誘導に成功した“シスト”について、その内部構造、代謝基盤、誘導因子等を種々の解析を用いて明らかにし、クルーズトリパノソーマの「休眠」というこれまで未知の現象が慢性シャーガス病の原因であることを示すことを目的とする。これまでの研究から、シスト形成の過程で、最初に原虫内部に空胞が形成されそれを取り囲むシスト壁で核を含むオルガネラの分裂が複数回起きたのちに、分裂したオルガネラが集合して娘細胞が形成され、それがシスト内腔に遊離することが明らかとなった。また、メタボローム解析によって、ATP/ADP比が著しく低下することを見出し、シストにおいて代謝活性が低下していることが強く示唆された。さらに、ConAは微小管タンパクであるチューブリンα/βサブユニットおよび原虫の主要なシステインプロテアーゼ、クルジパインcruzipainと結合することが強く示唆された。ConAは、α-D-マンノシル基およびα-D-グルコシル基に特異的に結合する。一方、生体内にはさまざまな糖鎖が存在しており、それら糖鎖を介したシスト誘導については明らかとなっていない。そこで本年度は、他の糖鎖に結合するレクチンのシスト誘導効果について解析した。各種レクチンを原虫培養液に添加したところ、ConAのみがシストを誘導することが明らかになり、他の糖鎖(Gal/GalNAc、フコース、GlcNAc、シアル酸)に対するレクチンはシストを誘導しなかった。以上から、シスト誘導には末端マンノースあるいはグルコースをもつ糖鎖とレクチンとの結合が必要であることが明らかとなった。
3: やや遅れている
大学内での管理・運営業務のエフォートが増えたことで、日常的に研究に割く時間が大きく減少した。さらに、2020年に入り、新型コロナウイルスの流行による研究活動の自粛が大きく影響し、目覚しい進展が得られなかった。
研究活動の自粛が解除され次第、研究協力者の助力を得ながら研究を遂行することで研究目的を達成できると考えている。また、本年度は、年度単位の経費使用を遵守しつつも無駄を極力排除した結果、次年度以降に当該基金を計上することができた。次年度以降は、研究費の無駄な支出を排除しつつ柔軟に運用する予定である。
本研究は基金で実施され、研究計画全体を見通した上で経費を配分することが可能となったため、年度単位の経費使用を遵守しつつも無駄を極力排除した結果、次年度使用額が生じた。次年度以降については当該基金を計上し、研究費の無駄な支出を排除しつつ柔軟に運用する予定である。(使用計画)次年度に予定している、プロテオーム解析を用いたConAリガンドとシスト特異的タンパクの同定については、予備実験を進めた結果、すでにConAに結合するタンパク質の候補を複数得ている。そこで次年度の計画としては、より精度を上げたプロテオーム解析を実施し、原虫のConA結合タンパク質の同定と糖鎖解析を進める予定である。また、シスト特異的な分子が特定できれば慢性シャーガス病の診断、治療にも有用であると考えられ、これについても研究を進める予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
FASEB J
巻: 33 ページ: 13002-13013
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Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Bioenergetics
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