マイトソームは、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の生存と感染能獲得に重要な特殊化したミトコンドリアである。申請者らはオルガネラの分裂メカニズムにおいても「ミトコンドリアではdynamin-related GTPase protein(DRP)のホモ複合体が実行する膜の切断を、E. histolyticaマイトソームではヘテロ複合体(2種類:EhDrpAおよびEhDrpB)が実行する」という特殊性を見いだした。本研究では、この「1種類で可能なはずの作業をわざわざ2種類で行う」という非合理的なシステムの成立要因の解明を目指した。 令和2年度は、シスト化過程のマイトソームの分裂制御におけるDRPの機能を考察するために、in vitroステージ転換モデルEntamoeba invadensを用いた解析を行なった。まず、EhDrpAおよびEhDrpBに相同なE. invadensのEiDrpA・EiDrpB1・EiDrpB2に対するウサギ抗血清を調整し、対応する組換えタンパク質の検出が可能であることを確認した。しかしながら、EiDrpB1用抗血清では内在性EiDrpB1の検出ができず、その発現量が検出限界以下である可能性が示唆された。EiDrpAの発現量は、シスト形成が概ね完了する誘導72時間後まで微増し、その後減少して120時間後には栄養型と比較して7割程度の発現量となった。EiDrpB2は48時間後には栄養型の8割以下の発現量となり、この値はマイトソームの分裂阻害が観察できるE. histolyticaのEhDrpB発現量と近似の値であった。以上から、シスト化誘導48時間後からDRPの発現量によってマイトソームの分裂制御が行われている可能性が示唆された。
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