研究課題
世界的にアウトブレイクが見られる人獣共通感染症レプトスピラ症の病原体レプトスピラ属細菌は250以上の血清型に分類され、ヒトを含む様々な哺乳動物に経皮的に感染する。感染後の症状は,血清型と宿主の組み合わせに依存する。一部の動物は病原体を無症状のまま腎臓に長期保菌して尿とともに断続的に排出するため,感染症拡大の原因となる。保菌動物の発生抑止や感染予防のためには,各レプトスピラ血清型の宿主選好性を理解することが重要であるが,そのメカニズムは未だ明らかにされていない。本研究では、レプトスピラの宿主選好性を決める可能性因子として、「宿主組織への接着性」と「接着後の運動性」を挙げ、これらの実験的検証を行うこととした。3種のレプトスピラ血清型と6種の哺乳動物由来の腎臓細胞を組み合わせ(計18ペア),培養腎臓細胞に感染させた細菌の動態を顕微鏡下で1菌体ごとに解析した。それぞれの病原体-宿主ペアについて約2700レプトスピラ菌体の接着と運動性を調べたところ,重症ペア(例えばイヌ腎臓細胞vs 病原性株L. interrogans serovar Icterohaemorrhagiae)では50%以上の菌体が腎臓細胞に接着し運動しているのに対し,非感染性ペア(例えばヒト腎臓細胞 vs 非病原性株L. biflexa Patoc I)では,その割合は25%に満たない(75%以上は腎臓細胞に接着せずに,液体培地中を遊泳していた)ことが分かった。また,腎臓細胞上での滑走運動(クロウリング)の持続性を調べたところ,重症ペアほど,レプトスピラは方向性のある持続的な滑走運動を示すことが分かった。以上のことから,病原体の強い接着性および持続的な細胞上運動が,感染後の重症化につながることが示唆された。
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