研究課題/領域番号 |
18K07101
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
富田 治芳 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (70282390)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高頻度接合伝達性プラスミド / 線状伝達性プラスミド |
研究実績の概要 |
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に存在した新規バンコマイシン耐性高頻度接合伝達性プラスミドpHT(pMG1型プラスミド)の高頻度伝達性に関与する接合凝集遺伝子の一つであるtraIを同定した。さらにこの接合凝集関連遺伝子領域の解析からtraI遺伝子上流に存在し、プラスミドの伝達に必須の遺伝子traDを同定した。traD遺伝子の欠失変異体を作成し、この変異体を保持する腸球菌株を解析したところ、この株は液体培地中での菌の凝集性が失われると同時に、固形培地上でのプラスミドの伝達性も完全に失われることが明らかとなった。traD遺伝子の直上流には強力な活性を持つプロモーター領域が存在しており、このプロモーター領域はtraDおよびtraIを含めた下流に存在する一連の伝達関連遺伝子の転写に必要であることが推測された。以前に同定した接合関連遺伝子traBの変異体においてこのプロモーター活性は著しく減弱することから、traBによる制御(正の調節作用)を受けていることが明らかとなった。 国外のVRE株から分離された複数のpMG1型高頻度接合伝達性プラスミドの解析を行った。プラスミド構造の比較解析を行ったところ、国外で分離されたpMG1型プラスミドはトランスポゾンや挿入配列ISの挿入による差異が認められるものの、基本的なコア構造は高度に保存されており、国内で最初に発見されたpMG1と極めて類似した構造を持つことが明らかとなった。 また本研究遂行の過程で行った国内外で分離されたVREの接合伝達性プラスミドの解析と検索から、pMG1型プラスミドとは異なる多剤耐性伝達性プラスミドを新たに発見した。この新規プラスミドは腸球菌ではこれまで報告されていなかった線状(直鎖型)プラスミドであることが明らかとなり、pELF1(Enterococcal Linear-Formed plasmid)と命名した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多剤耐性プラスミドの高頻度接合伝達性に関係する新たな遺伝子traDを同定することができた。このtraD遺伝子が凝集遺伝子を含む伝達関連遺伝子の多くの調節していること、さらにこのtraD遺伝子の発現を以前に同定していたtraB遺伝子が転写レベルで正に調節していることを明らかにした。また国外で分離された複数のpMG1型プラスミドの構造比較を行い、国内で分離されたpMG1と基本的なコア構造が一致していることを示すことができた。さらに本研究遂行(腸球菌の新規伝達性プラスミドの検索)の過程で、腸球菌の線状伝達性プラスミドを世界で初めて発見し、報告した。
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今後の研究の推進方策 |
VREを含む多剤耐性腸球菌が保持するpMG1型高頻度接合伝達性プラスミドの高頻度伝達性の分子機構の詳細を明らかにする。特に新たに同定した伝達性に必須のtraD遺伝子の機能と発現調節系について解析する。また国外のVREから分離したpMG1型プラスミドの構造のより詳細な比較解析を行う。また現在分離収集されている国内外のVRE株について、pMG1型プラスミドを含め、薬剤耐性を伝播させる新規の高頻度接合伝達性プラスミドの検索を進める。また世界で初めて発見した腸球菌の線状伝達性プラスミドの解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に予定していた実験(接合凝集能の解析)が想定よりやや遅れ、そのための物品費用が少なかったため。
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