研究課題/領域番号 |
18K07102
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高屋 明子 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (80334217)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分泌蛋白質 / 骨髄形質細胞 / IgG / ワクチン / サルモネラ |
研究実績の概要 |
長命形質細胞(LLPC)は長期間抗体を産生することができ、液性免疫の維持に重要な役割を担う。本年度は、細胞内寄生細菌であるサルモネラが分泌するSiiEがIgGを分泌するLLPC(IgG-PC)を特異的に障害する分子機構について明らかにした。SiiEのN末領域の129-168アミノ酸配列はマウスlaminin β1と高い相同性があり、この領域のみのペプチドとこの領域を含むGST-SiiE97-170をマウスに投与した際にもIgG-PC量が減少した。GST-SiiE97-170は骨髄IgG-PCには結合するものの、脾臓IgG-PCには結合しなかった。そこでGST-SiiE97-170と結合する骨髄IgG-PCを探索した。Lamininのレセプターとしてintegrin β1について調べたところ、GST-SiiE97-170はintegrin β1と相互作用した。骨髄IgG-PC でのintegrin β1の発現は脾臓IgG-PCよりも高かった。IgG-PCはlaminin β1を発現するストローマ細胞に維持されることも見出している。このことから、サルモネラから分泌されたSiiEは129-168アミノ酸配列のlaminin β1相同領域を介して骨髄IgG-PCのintegrin β1と相互作用し、ストローマ細胞との相互作用を低下させることで、骨髄IgG-PCの維持を傷害することが強く示唆された。また、SiiEを欠損させた弱毒サルモネラを感染させたマウスは、SiiE+株を感染させたマウスよりもサルモネラ特異的なIgGの血中量が増加し、強毒株の排除が著しく亢進した。このことから、サルモネラSiiE欠損株は、ワクチン株として有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨髄IgG-PCとストローマ細胞の維持に関わる因子をそれぞれ同定し、SiiEによる障害の分子機構を明らかにすることができた。長期記憶免疫維持に関わる重要な知見と考えられ、この点では順調に研究が十分に進展したと考えられる。また、サルモネラ分泌タンパク質に着目した研究を進め、細胞内生存・増殖に必要なSPI2制御について新たな知見をまとめることができた。 サルモネラの分泌タンパク質は骨髄で作用するものの、サルモネラは脾臓、肝臓などの臓器に局在している。免疫染色の実験から脾臓に局在するサルモネラがSiiEを分泌することを示唆するデータを得ることができた。また、腹腔から感染させたサルモネラが局在する細胞がマクロファージだけでなく、B細胞であることを示唆する結果を得ており、今後の実験を進めるうえで必要な結果等を収集することができている。 SiiEの研究を進める過程で、サルモネラSiiE以外の因子でも骨髄免疫細胞を制御することが見出された。この現象についても研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.サルモネラの局在細胞として、マクロファージだけではなくB細胞も重要であることが見出された。一方、サルモネラは骨髄のB細胞成熟過程を抑制することで、新たな抗体産生細胞産生を阻害している可能性を示唆する結果を得ている。そこで、サルモネラとB細胞の相互作用に着目した検討を進める。これにより、SiiEと共に記憶免疫を制御するサルモネラの分子機構を明らかにすることを目的に行う。 2.腹腔に感染したサルモネラの一部は腹腔マクロファージに局在するが、この腹腔マクロファージはサルモネラが持続感染している間には腹腔に戻らない。このことから、持続感染しているサルモネラは何かしらのシグナルを維持することで、骨髄のみならず腹腔などの細胞にも影響を与えることが考えられる。そこで、経口投与でも同じ現象が起こるか等について検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画が順調に進み、論文が投稿できたため、実験計画の一部を入れ替えた。そのため、当初予定していた動物実験を翌年に繰り越したため、その予算として次年度に持ち越した。又、研究成果を発表する予定の学会が次年度の4月であるため、使用予定を次年度に持ち越した。
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