研究課題
ピロリ菌病原因子CagAが宿主細胞内において発揮する病原シグナル生成を生化学的に解析するため、胃がんの多発する東アジア諸国に蔓延する東アジア型CagAならびに東アジア以外に蔓延する世界標準型の欧米型CagAそれぞれについてチロシンリン酸化型および非リン酸化型全長CagAを大腸菌体内で発現させ大量に調製する方法を樹立した。また、CagAが標的とする宿主PAR1b、SHP2およびCskの組み換えタンパク質をそれぞれ大量に調製した。欧米型CagA結合における各因子間の影響を検討した結果、CagA-PAR1b相互作用はCagA-SHP2相互作用を促進する一方、CagA-Csk相互作用は顕著にCagA-SHP2相互作用を低下させることを見出した。今後、東アジア型CagAについても同様の試験を行い、これらの標的分子との相互作用におけるCagAサブタイプ間の差異を検討する。CagA-PAR1b相互作用ならびにCagA-SHP2相互作用に関してX線結晶構造より、CagAサブタイプ間におけるPAR1bおよびSHP2結合能の違いを検討し、その構造-機能連関をSci Rep誌に報告した。CagAは細胞内においてPAR1b二量体(多量体)との相互作用により間接的に二量体化する結果、SH2ドメインを2つ有するSHP2との相互作用が増強するモデルが提唱されているが、本研究の遂行過程で組換えPAR1bは単独では二量体化せず、因子Xが二量体化に必要であることがわかった。一方、上述の結果から因子X非存在下においてもPAR1bはCagA-SHP2相互作用を促進したことから、従来のCagA-PAR1b-SHP2複合体形成モデルとは異なる相互作用機序が存在していることが示唆された。今後、因子X存在下ならびに非存在下での複合体結晶化を進めるとともに、さらなる生化学的解析を実施していく。
2: おおむね順調に進展している
PAR1b多量体化に関して、病原シグナル生成のための既存の相互作用モデルとは異なる相互作用モデル構築を視野にとらえており、新たな知見が得られているため。
PAR1bの多量体化に必須な因子Xを新たに複合体形成モデルに導入し、生化学的相互作用解析を実施していくと共に、病原シグナル複合体の共結晶化を通したX線結晶構造解析を試み、構造と機能の関連を明らかにしていく。
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Scientific Reports
巻: 8 ページ: 15981
10.1038/s41598-018-34425-4
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00617.html