ピロリ菌病原因子CagAが宿主細胞内において病原シグナルを生成するためには、Src/AblキナーゼによるCagAのチロシンリン酸化修飾を介したSHP2との複合体形成が重要であることが報告されている。前年度までの各精製タンパク質を用いたプルダウン実験により、このCagA-SHP2相互作用はCagA-PAR1b相互作用によって促進される一方CagA-Csk相互作用によって抑制されることを見出した。過去の文献的に、CskはSH3ドメインを介してホモダイマーを形成しうることが示されている。このCskの二量体化がCagA-Csk相互作用に及ぼす影響を検討した。はじめに、SH3ドメインに点変異を導入した3つの組換えCsk変異体コンストラクトを作成した。これらのCsk変異体を大腸菌菌体内で発現させ組換えタンパク質を精製した。精製したCsk変異体は野生型Cskに比較し、ゲルろ過クロマトグラフィー解析において顕著に溶出ピークが後方へシフトした。また野生型CskとCsk変異体はそれぞれ単一の溶出ピークを示した。この結果は、本実験条件下においてSH3ドメイン間の相互作用が極めて強固であり野生型Csk分子のほとんどは二量体として存在し、その二量体化にはSH3ドメインが責任的に働くことを強く示唆する。GSTプルダウン実験によりCagAとCskの相互作用を解析したところ、野生型Cskに比較しSH3ドメインに変異を導入したCsk変異体ではCagAとの相互作用能が著しく低下した。したがって、CagA-Csk相互作用はCskの二量体化により促進されることが示唆された。
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