研究課題
リステリア感染のアンピシリン治療モデルにおいてインフラマソームが菌の排除を亢進する機序を明らかにする目的で、菌排除の亢進に関わるインフラマソーム下流のエフェクター分子の同定を試みた。インフラマソーム下流のエフェクターとしてサイトカインであるinterleukin (IL)-1b/IL-18およびパイロトーシスの誘導に関わるgasdermin D (GSDMD)が知られているが、これらのうちGSDMDがアンピシリン治療効果の亢進に必要であることがわかった。 この結果から、パイロトーシスが同治療モデルにおける菌排除を亢進させることが示唆される 。一方、リステリア感染マクロファージをアンピシリン処理するとパイロトーシスが促進されることが 明らかになった。すなわち、同治療モデルにおいてアンピシリン処理は単にリステリアに作用するだけではなくインフラマソーム-パイロトーシス経路の活性化を増強することで自身の効果を亢進させることがわかった。その理由として、細胞内でリステリアがアンピシリンによって傷害されることで菌由来DNAが細胞質内に放出され、その結果、細胞内DNA受容体であるabsent in melanoma 2 (AIM2)がインフラマソームを形成し、カスパーゼ-1活性化とそれによるGSDMDの成熟化を介してパイロトーシスを誘導する可能性が考えられる。この推察と一致して、アンピシリンによる宿主マクロファージからのリステリアの排除にAIM2が重要な役割を果たす結果が得られている。
2: おおむね順調に進展している
リステリア感染のアンピシリン治療モデルにおいて菌の排除を亢進するインフラマソーム下流のエフェクター分子(GSDMD)を同定することができた。計画的ネクローシスであるパイロトーシスが菌排除の亢進に関与することが明らかになり、この現象の詳細な機序解明に向けて大きく前進した。
インフラマソーム-パイロトーシス経路の不全はアンピシリン処理によるリステリア感染マクロファージ内からの菌排除を顕著に遅延させることから、この条件下において細胞内の一部の菌がアンピシリン処理に不応答性を示していると想定される。そこで、そのような菌の状態や細胞内局在を明らかにする。リステリアは細胞質内では増殖してF-アクチンを誘導するが、食胞内では増殖もF-アクチン誘導も起こさない。このような違いが菌のアンピシリンへの感受性を決定する可能性を考え、アンピシリン処理中にリステリアがどちらに局在するかを検討する。さらに、そのような菌の局在とパイロトーシスとの関係性を明らかにする。
日本細菌学会総会は例年3月中に開催されるが、第92回日本細菌学会総会は北海道での開催のため2019年4月に変更になった。そのため、この学会への参加に係る旅費を2018年度ではなく次年度に使用することになった。また、2018年度中の発表を目指していた論文について、実際の発表時期が追加実験の実施などの原因で予定よりも遅れたため、publication fee(約60万円)の支払いが2018年度ではなく次年度にずれ込んでしまった。従って、繰越分はこれらの支払いに当てる予定である。
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Nature Communications
巻: In press ページ: -
10.1038/s41467-019-09753-2