研究課題
前年までに、リステリア感染のアンピシリン治療モデルにおけるインフラマソームによる菌排除の亢進がパイロトーシス(計画的ネクローシス)実行因子であるgasdermin D (GSDMD)に依存することを明らかにしていた。今年度、研究を進めることでGSDMD以外にもインフラマソーム-カスパーゼ-1経路の下流で細胞死の誘導に関わるシグナル伝達経路が 存在することが明らかになった。インフラマソーム-カスパーゼ-1経路がGSDMDの非存在下においてアポトーシスを誘導することがわかり、そのシグナル伝達分子としてカスパーゼ-1基質であるBidおよびカスパーゼ-7を同定した。また、Bidがこのアポトーシス誘導でより主要な役割を果たすこと、カスパーゼ-1によって切断されることで活性化し、ミトコンドリア経路を介してアポトーシスを誘導することが示唆された。リステリア感染に対するアンピシリン治療効果は、GSDMDと比べてASCやカスパーゼ-1に強く依存しているため、今年度に同定されたBidおよびカスパーゼ-7などのアポトーシスのシグナル伝達分子がGSDMD非存在下で働いている可能性が想定される。また、リステリアを感染させたASC欠損マクロファージをアンピシリン処理すると、菌がLAMP-1陽性の小胞内に局在することが明らかになった。アンピシリンは主に増殖中の菌に作用するため、このような膜構造内でリステリアの増殖が制限され、その結果としてアンピシリンに長時間耐える可能性が示唆された。また、リステリアを内包するLAMP-1陽性小胞は、野生型マクロファージと比べてASC欠損マクロファージで有意に増加していたため、インフラマソーム-カスパーゼ-1経路がこの膜構造の傷害または形成阻害に働くことが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
インフラマソーム-カスパーゼ-1経路の下流においてGSDMD非依存的にアポトーシスを誘導するシグナル伝達経路が存在することを明らかにし、その分子機序を特定した。また、アンピシリン処理時、リステリアが局在するオルガネラ(LAMP-1陽性小胞)を特定した。インフラマソーム-カスパーゼ-1経路が菌排除を亢進する現象の実態解明に向けて大きく前進した。
GSDMDに加えてBidもインフラマソーム-カスパーゼ-1経路の下流で細胞死に関わることが明らかになったため、今後、アンピシリン処理時の菌排除におけるBidの役割も検討する。この目的のためにGSDMD/Bid二重欠損マウスを作製する。アンピシリン処理時にリステリアがLAMP-1陽性小胞内に局在することから、この膜構造が菌のアンピシリン耐性に関わるか検証する。また、細胞死シグナル伝達分子であるGSDMDおよびBidがLAMP-1陽性小胞に与える影響を調べる。
研究の過程において、インフラマソーム-カスパーゼ-1経路による細胞死誘導のGSDMD非依存的経路を発見した。この発見自体がハイインパクトジャーナルへの掲載に値すると判断したため、単独で論文発表することを優先して本研究課題で行う予定だった実験を後回しにした。以上のような理由から次年度使用額が生じた。ただし、この発見およびその過程で作製した実験ツールが本研究課題にも活かせるため、総合的観点からは本研究課題は前進していると判断できる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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