研究課題/領域番号 |
18K07107
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
松村 拓大 金沢大学, 医学系, 講師 (00456930)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ボツリヌス神経毒素複合体 / 無毒成分 / HA / M細胞 / ムチン / 経粘膜ワクチン |
研究実績の概要 |
ボツリヌス毒素は天然に存在する最も強力な毒素であり、経口摂取された場合、微量で重篤な食中毒を引き起こす。我々はこれまでに血清型A型毒素が生体防御を担う細胞であるMicrofold cell(M細胞)の機能を利用し、腸管上皮細胞バリアを突破する、他の毒素にはない巧妙な体内侵入機構を持つことを明らかにした。本成果はボツリヌス症の予防・治療だけでなく、その巧妙な輸送機構を利用した薬物送達システムの開発へ繋がる。本研究では、未だ不明である他の血清型毒素の体内侵入機構の解明およびそれらの輸送機構を利用した新しい経粘膜薬物送達システム・粘膜ワクチンの開発を目指す。 我々は、A型と同様にヒトに中毒を引き起こすB型神経毒素複合体がA型と比較して数十倍経口毒性が高く、腸管内局在が異なることを明らかにしている。この吸収機構の違いを明らかにすることにより、A型とは異なる経路をもつ経粘膜薬物送達システムへの応用が可能である。まず我々は吸収機構の違いに関与する宿主側の候補因子としてムチン層に着目した。腸管上皮は厚いムチン層で覆われており、この物理的バリアが血清型間の腸管内局在や経口毒性の違いに影響している可能性がある。我々はマウス腸管ムチン、BSM(ウシ顎下腺ムチン)、PGM(ブタ胃ムチン)を用いて毒素複合体との結合を解析した。その結果、B型がA型と比較してムチンとの結合性が低いことが明らかとなった。またムチンとの結合は毒素複合体中の無毒成分hemagglutinin(HA)が担っていることも明らかとなった。さらにTranswellを用いてムチン層の透過を比較した結果、結合性の低かったB型がA型と比較して効率よくムチン層を透過した。これらの結果より、ムチン層を効率よく透過できることがB型の腸管内局在や高い経口毒性に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経口毒性の比較や腸管内局在の解析結果から、B型神経毒素複合体はA型とは異なる機構で腸管から吸収されている可能性がある。この吸収機構の違いを明らかにすることにより、それぞれの機構の特徴を生かした経粘膜薬物送達システムへの応用が可能である。本年度は、A型とB型の毒素複合体の局在および経口毒性の違いを規定している宿主側の候補分子としてムチン層へ着目し、毒素複合体とムチンとの相互作用を解析した。その結果、高い経口毒性を持つB型がA型と比較してムチンとの相互作用が低く、効率よくムチン層を透過できることが明らかとなった。また無毒成分HAがこの相互作用の違いに関与する毒素複合体側の因子であることも明らかにした。今後はHAとムチン層との相互作用の詳細な解析およびワクチン輸送単体としての毒素複合体(HA)の機能解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析結果から、A型毒素複合体(HA)はムチン層にトラップされるため、ムチン層やその他の物理的バリアを持たないM細胞から特異的に取り込まれること、B型毒素複合体(HA)はムチンとの相互作用が低く、ムチン層を透過できるためM細胞に加えて吸収上皮細胞へも局在できることを明らかにした。ムチンとの相互作用の違いが毒性の違いに寄与していることが示唆される。HAは3つのサブコンポーネント(HA1、HA2、HA3)から構成される。今後は、A型およびB型のHAサブコンポーネントを用いてキメラHAを作成し、腸管内局在や経口毒性に寄与するサブコンポーネントを同定する。また、各種血清型間のアミノ酸配列を比較し、ポイントミューテーションにより、局在および経口毒性の違いに重要なアミノ酸を決定する。一方で、A型B型それぞれの腸管吸収機構の特徴を生かしたワクチン輸送単体としての毒素複合体(HA)の機能解析を進めていく予定である。
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