ボツリヌス菌から産生されるボツリヌス神経毒素は、常に無毒成分との複合体として産生される。ボツリヌス食中毒はこの無毒成分複合体を経口摂取することにより発症する。我々はこれまでに①血清型A型毒素が生体防御を担う細胞であるMicrofold cell(M細胞)から体内に侵入すること、②B型神経毒素複合体がA型とは異なる体内侵入機構を持つこと、③その違いは宿主側のムチンと毒素側のHAに依存している可能性があること、を明らかにしてきた。本年度は、より効率よく免疫を誘導するワクチン輸送担体候補を決定するために毒素(HA)の体内侵入機構に関与する因子についてより詳細に解析した。 A型HAとB型HAのそれぞれのサブコンポーネント(HA1、HA2、HA3)を再構成したキメラHAを用いてマウスムチンとの結合を解析した結果より、HA1が結合の違いに大きく寄与していることが示唆された。次にムチンの透過を比較した結果、HA1がB型のキメラHAが効率よくムチンを透過した。さらにマウス腸管内局在を解析した結果、HA1もしくはHA3がB型のキメラHAが絨毛上皮に結合している様子が観察された。これらの結果から、HA1及びHA3がムチンとの相互作用に関与しており、その寄与度はHA1が大きいことが示唆された。HA1及びHA3は糖鎖結合活性を持つことが知られている。その結合活性を消失させた変異体を作成し、ムチンとの相互作用を解析した結果、HA1糖鎖結合変異体でムチンとの相互作用が消失した。これらの結果から、HA(特にHA1)の糖鎖認識の違いがA型とB型神経毒素複合体のムチンとの相互作用の違い、すなわち腸管吸収の違いに関与していることが考えられた。
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