研究課題
腸管系病原菌は、宿主常在菌の影響や粘液層などのバリアを巧みに掻い潜りながら標的部位を認識し、宿主への付着・定着を達成する。本研究では、申請者が新たに提案する細菌のIV型線毛と分泌タンパク質との相互作用を介して実現されるユニークな付着メカニズムを、細胞アッセイを含む分子生物学的手法や構造生物学的手法により検証し、腸管系病原菌の初期付着過程の構造学的基盤を解明することを目的としている。2018年度は、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)が保有するIV型線毛であるCFA/IIIと分泌タンパク質CofJの原子レベルでの相互作用情報を得るため、CFA/IIIの先端部に位置するマイナーピリンCofBと分泌タンパク質CofJとの相互作用解析を実施した。その結果、溶液中でホモ三量体を形成するCofBは、CofJのN末端1~24残基からなる領域と特異的に相互作用することが明らかになった。さらに、X線単結晶構造解析の結果から、CofJの相互作用に関わるN末端領域とCofB三量体の原子レベルでの結合様式の解明に成功した。CofBはC末端側に存在するH型レクチン様ドメインにより三量体を形成するが、結晶構造解析の結果、H型レクチンファミリーに保存されているGalNAc結合ポケットにCofJのN末端領域に存在するフェニルアラニン残基が埋め込まれるように相互作用することが明らかになった。従って、CofBにおいては、H型レクチンドメインが糖鎖の認識ではなく、分泌タンパク質との相互作用という異なる目的に利用されていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、マイナーピリンCofBと分泌タンパク質CofJの複合体結晶の作製に取り組んできたが、得られた結晶の質が悪く、X線単結晶構造解析の結果、解釈可能な電子密度マップを与える初期位相の決定には成功しなかった。そこで、プルダウンアッセイや等温滴定型熱量計を用いた相互作用解析から推定したCofJの結合に関与するN末端1~24残基からなるペプチドを合成し、結晶化に用いることで、当該ペプチドとCofB三量体との複合体結晶構造を分解能3.57Åで明らかにすることができた。得られた複合体の構造とこれまでに解析したCofJの結晶構造から、CofJは、N末端のフレキシブルな領域でIV型線毛の先端部に結合し、線毛と宿主腸管上皮細胞の“橋渡し”の役割をする付着メカニズムが示唆された。さらに、CofJの標的細胞との結合に関与すると推定される領域には、多数のチロシン残基がクラスターを形成しており、当該領域が標的細胞の認識に関与する可能性が示唆された。
現在までの研究から、IV型線毛先端に位置するマイナーピリンと分泌タンパク質との相互作用の詳細が明らかになったが、依然として、腸管上皮細胞上の標的分子は不明である。分泌タンパク質CofJの立体構造を用いたホモロジー検索の結果、CofJの構造は膜孔形成タンパク質の一種であるα-hemolysinと類似していることが明らかになっている。また、膜孔形成タンパク質の多くが芳香族アミノ酸に富む脂質結合領域を有することが知られている。これらの知見から、CofJも同様に細胞膜を構成する脂質を認識する可能性がある。そこで、今後は、各種脂質組成を持つリポソームやナノディスクを作製し、CofJとの結合実験を実施するほか、脂質アレイなどを用いた結合アッセイを行い、CofJの標的分子の同定を試みる予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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