研究課題/領域番号 |
18K07113
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島本 整 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (90187443)
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研究分担者 |
成谷 宏文 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (30452668)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | レトロン / 逆転写酵素 / msDNA / Vibrio cholerae / Vibrio mimicus |
研究実績の概要 |
細菌逆転写酵素は,RNA-DNA複合体(msDNA)の合成を行っている。逆転写酵素遺伝子(ret)は,ゲノム上でmsDNAをコードする領域(msr-msd)とともにレトロンと呼ばれるオペロンを形成しており,一種の可動性遺伝因子だと考えられている。これまでにコレラ菌由来のmsDNA-Vc95と特異的に結合するタンパク質が見つかっており,コレラ菌の病原性発現調節との関与が示唆されている。 今年度の研究では,β-グルクロニダーゼ遺伝子(gusA)をレポーター遺伝子としてコレラ菌のレトロン-Vc95のプロモーター下に挿入したO139コレラ菌のレポーター株を用いてさまざまな培養条件におけるレトロンの発現状況を調べた。 その結果,高濃度のNaCl条件とFe,N源,C源の制限条件でレトロンの発現量の低下が認められた。これらの条件は,コレラ菌が感染するヒト腸管内の条件と似ていると考えられる。以前の研究で,msDNAの合成に必須のret遺伝子の破壊株において,病原性関連遺伝子の発現が増加していることが明らかになっている。この結果は,腸管内に近い環境においてmsDNAの合成量の低下が病原性関連遺伝子の発現増加へと繋がる可能性を示唆している。 また,コレラ菌に類似のVibrio mimicusにおいて新たに発見したレトロン-Vm85は,Vibrio metoecusおよびVibrio vulnificusのゲノムにおいて同じ部位に挿入されており,しかもかなり高い相同性を示した。この結果は,レトロンが種を越えて水平伝播している可能性を示唆しており,新たな細菌の可動性遺伝因子として細菌の進化に関与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度構築したコレラ菌のレポーター株を用いてさまざまな培養条件でレトロンの発現量を定量的に解析した。 また,コレラ菌に類似のVibrio mimicusにおいて新たに発見したレトロン-Vm85が可動性遺伝因子である可能性を示唆する結果を得た。 これらの研究結果から,おおむね当初の計画どおりに進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ヒト腸管内により近い培養条件(嫌気性,弱酸性,ムチン添加,胆汁酸添加,など)でコレラ菌のレポーター株を培養し,レトロンの発現状況を調べる。そして,病原性関連遺伝子の発現状況と比較し,両者の関連性を明らかにする。また,msDNAによる遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにするために,msDNA結合タンパク質の解析は必須である。 レトロンが大量発現または発現抑制されるような条件が見つかり,病原性関連遺伝子の発現状況とmsDNAの転写制御因子としての機能を結びつけることができれば,コレラ菌の新たな病原性発現ネットワークの一端を明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた謝金の支出がなかったことに加え,年度末に計画していた学会参加が中止となったため,出張旅費の支出がなかった。 次年度は最終年度であるため,研究成果を発表するための出張旅費が必要となる。また,論文の英文校正費用,投稿料なども必要となる予定である。
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