研究課題/領域番号 |
18K07119
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
岡田 信彦 北里大学, 薬学部, 教授 (80194364)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サルモネラ / マクロファージ / 細胞死 |
研究実績の概要 |
サルモネラは食中毒の原因菌として胃腸炎や敗血症を引き起こす。このようなサルモネラの病原性発現には独立した2つのIII型分泌装置とこれら分泌装置から分泌され、宿主タンパク質と直接相互作用を示すIII型エフェクターが重要な役割を果たす。本研究では、サルモネラの増殖の場であるマクロファージに着目し、III型エフェクターによるマクロファージの細胞死誘導機構または制御機構を解明することで、サルモネラ腸炎発症機構との関連性を明らかにする。 今年度はまず、マクロファージの細胞傷害性に関わるエフェクターを同定することを試みた。マウスマクロファージ様細胞RAW264.7に29種類のIII型エフェクター発現プラスミドをそれぞれトランスフェクションしたが、RAW264.7においてエフェクターの発現がほとんど認められなかった。そこで、S. Typhimuriumの29種類のエフェクター欠失株を作成し、RAW264.7細胞に感染し、20時間後の細胞傷害性をLDH release assayにより調べた。その結果、5つのエフェクター欠失株において、親株よりも細胞傷害性が低下した。このことから、欠失したこれら5つのエフェクターが細胞傷害性すなわち細胞死を誘導することが示唆された。一方、親株よりも細胞傷害性が高い欠失株が認められなかったことから、本条件ではS. TyphimuriumはIII型エフェクターの作用により、RAW264.7細胞に対し、細胞死を抑制しないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度はサルモネラ感染によりマクロファージに細胞死が誘導されるか、または抑制されるのかを明らかにし、これらの表現系に関与するIII型エフェクターを同定する予定であった。これまでにサルモネラがRAW264.7細胞に対し細胞傷害性を示すこと、また5つのエフェクターが細胞傷害性に関わることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
III型エフェクターによる細胞死誘導機構を確認するために、RAW264.7細胞を各種細胞死阻害剤で処理したのち、細胞死への影響を確認する。また、カスパーゼ、サイトカイン、HMGB1などのタンパク質発現量やmRNA発現量をウエスタンブロット法及びリアルタイムPCR法により定量解析する。さらに同定されたIII型エフェクターに関しては、宿主標的分子の探索と作用機序の解明を行い、エフェクターが機能する標的経路を明らかにする。宿主標的分子の探索は、まず、カスパーゼに直接結合するエフェクターの有無を確認する。カスパーゼとの結合性がないエフェクターについては、培養細胞溶解液からPull-down assayまたは免疫沈降反応によりエフェクター分子と結合するタンパク質分子を質量分析により同定する。標的分子が決定したエフェクターについては、その作用機序を解明することを試みる。標的分子のCRISPR/Cas9法による遺伝子欠損によるエフェクターの機能を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時にはマクロファージの細胞死に関わるIII型エフェクターを同定するため、エフェクター発現プラスミドをトランスフェクションによりRAW264.7に導入する予定であったため、この実験に使用する試薬および細胞培養関連試薬を主に消耗品費として計上していた。しかしながら、プラスミドの導入効率が極端に悪かったため、実験を中止した。 一方で、サルモネラ感染によってRAW264.7細胞に細胞死を誘導すること、またこの表現系に5つのエフェクターが関与することが明らかとなったことから、今後、腸炎モデルマウスにサルモネラを感染させることで、細胞死と炎症の関係を明らかにする予定である。このため、実験動物および動物実験後のサイトカイン発現解析や病理解析に必要な試薬を購入する予定である。
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