高度多剤耐性アシネトバクター属菌が日本や東南アジアの医療施設で新興し、感染症治療および院内感染対策上の大きな脅威となっている。我々は日本、ベトナムおよびネパールの医療施設から分離された多剤耐性アシネトバクター属菌の分子疫学解析および全ゲノム解析を実施してきた。その結果、これらの国々で分離される多くのアシネトバクター属菌はアミノグリコシド系薬に対して高度耐性を付与する16S rRNAメチラーゼを産生していること、その分離頻度が2012年から2015年にかけて優位に増加していることを明らかにしてきた。さらに、完全長ゲノム解析の結果、アシネトバクター属菌の多くはこの16S rRNAメチラーゼ遺伝子がプラスミドではなく染色体に組み込まれていることを明らかにした。本研究では染色体に様々な高度耐性因子がインテグレートされた高度多剤耐性アシネトバクター属菌のゲノムを抽出し、制限酵素で細切し、それを感受性菌、16S rRNAメチラーゼ遺伝子及びカルバペネム耐性遺伝子を混合したものに加えるとで感受性のアシネトバクター属菌がカルバペネム及びアミノグリコシド系薬に高度耐性化することを確認した。そこで、高度多剤耐性アシネトバクター属菌のゲノムライブラリーを大腸菌で作成し、それらのプラスミド、感受性菌、16S rRNAメチラーゼ遺伝子及びカルバペネム耐性遺伝子を混合したものに加え、菌の耐性化を見ることでどの遺伝子が関与しているのかを特定したところ、プロファージに関与する遺伝子が遺伝子の取り込みに関与していることが明らかとなった。
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