ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、ボツリヌス食中毒の原因物質である。自然界で、BoNTは単独ではなく、NTNHAおよび3種のHAタンパク質(HA-33、HA-17、HA-70)など無毒タンパク質と結合し、ボツリヌス毒素複合体(TC)を形成する。ボツリヌス食中毒において、BoNTは胃や腸などの消化管を輸送されるが、無毒タンパク質に保護されているため、消化液で分解されることなく、小腸へ到達する。申請者らは、ラット小腸上皮株化細胞(IEC-6)を用いた実験から、TC分子内のHA-33タンパク質の数に応じて、TCの細胞層透過が顕著に促進されることを明らかにした。すなわち、HA-33タンパク質は、TCが小腸壁を通過し体内に侵入する際に重要な役割を担うことが示唆された。本研究では、TC中のHA-33タンパク質のみ一次構造が異なる2種のTCに着目し、構造が機能に大きく影響を与えることを明らかにした。すなわち、HA-33タンパク質の一次構造が異なるTCを産生する2種のボツリヌス菌から、それぞれTCを精製し、マウスに対する毒性を調べた。その結果、HA-33が変異した菌株から得られたTCの経口毒性が顕著に上昇することを示した。 一方、特定の菌株が産生するTC中に存在するHA-33はC末端側領域から31残基のアミノ酸が欠落することが示されている。また、その欠落によりTCが結合する糖鎖が変化する。しかし、アミノ酸欠落のメカニズムについては、不明のままである。本研究では、HA-33のN末端およびC末端にアミノ酸タグを融合した組み換えタンパク質を作成した。作成した組み換えタンパク質にボツリヌス菌の培養上清を加えると、C末端領域のアミノ酸が欠落することが観察された。以上の結果から、ある種のボツリヌス菌にはHA-33のC末端領域の欠落を引き起こすプロテアーゼのような酵素が含まれていることが示された。
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