研究課題
O157:H7に代表される腸管出血性大腸菌感染症の主要な病原因子であるShiga toxin (Stx)は、Stx1とStx2の2つのファミリーからなり、Stx2の方が臨床上、症状の重篤化に深く関与することが知られている。これまでに我々は、Stxが細胞内に取り込まれたのち、Stx1と比較してStx2がより積極的に細胞外へ放出されること、放出されたStx2の一部はexosome結合型(exo-Stx2)であること、exo-Stx2が個体レベルでの強毒性に関与することを見出している。本研究では、Stxにより活性化されるキナーゼ群を網羅的解析することでStx2に特徴的な細胞内輸送の分子機構を明らかにすることを目的としている。キナーゼ群の活性化を網羅的に解析するために、Intavis社のCelluspotsを用い、セリンスレオニンキナーゼ群及びチロシンキナーゼ群の基質ペプチド(各群384種)をスライドグラス上にスポット合成した。Stx1あるいはStx2存在下、30分37度培養したベロ細胞の細胞溶解液を、作成したスライドグラスに添加し、リン酸化ペプチドをPhos-tag biotinにより検出した。その結果、Stx1あるいはStx2で刺激した場合、リン酸化される基質ペプチドはそれぞれ10種類以上存在すること、またStx1よりもStx2でより強くリン酸化される基質ペプチドが11種類あることが示された。詳細は現在解析中であるが、Stx2でより強く活性化されるキナーゼ群には、少なくともAktとその上流キナーゼが含まれていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、セリンスレオニンキナーゼ群あるいはチロシンキナーゼ群の基質ペプチド、各群最大384種類をスライドグラス上にスポット合成した。本スライドグラスを用いて、細胞溶解液中のキナーゼ活性化によりリン酸化される基質ペプチドを、Phos-tag-biotinで検出する系を確立した。さらに各Stx刺激で活性化される細胞内キナーゼ群の網羅的解析が進行中であり、経過はおおむね良好である。
スライドグラスを用いた検討によって同定されたキナーゼ分子について、その阻害剤を用いた検討を行う。各阻害剤とStx2存在下、ベロ細胞を一定時間培養し、Stx2の培養上清中への放出を効率よく阻害することを指標に、Stx2の細胞外輸送に関与する責任キナーゼを同定する。既存の阻害剤があるものを優先させる。また、キナーゼ関連遺伝子のsiRNAを用いた検討も行う。ベロ細胞でのStx2の細胞外放出量、exo-Stx2の産生量の減少を指標に、exo-Stx2の産生に密接に関係する分子の同定を行う。
シーケンス受託解析を予定していたが、解析サンプル数に変更が生じたため、解析自体を次年度に行うこととした。次年度は、Stxタンパク質精製を行う予定であり、その中でシーケンス受託解析や関連する消耗品、試薬等を購入予定である。
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Scientific reports
巻: 8 ページ: 1-14
10.1038/s41598-018-29128-9