研究課題/領域番号 |
18K07130
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
田邊 知孝 松山大学, 薬学部, 准教授 (60532786)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腸炎ビブリオ / 鉄 / 炭素源 / 転写因子 / シデロフォア / CRP |
研究実績の概要 |
病原細菌の病原性発現は菌の増殖環境によって大きく変化する。また、病原細菌は宿主内において複数の環境ストレスを受けている。そのため、病原細菌の病原性発現を理解するためには、複数のストレスに対する相互連携的な応答による病原因子発現制御機構を解明する必要がある。本研究では、病原細菌の感染部位の一つである回盲部や大腸内では二価鉄や単糖がほとんど無いということに着目し、食中毒原因菌である腸炎ビブリオにおける鉄制限及び炭素源制限のストレスに対する連携的な応答による病原因子の発現制御について解析を進めている。 2018年度は、炭素源制限応答に関わる転写因子であるCRPと腸炎ビブリオの病原因子の一つと考えられるvibrioferrin〔シデロフォア(微生物が産生する三価鉄キレート分子)の一種〕の産生との関連について検討した。その結果、crp遺伝子欠失株ではvibrioferrin産生がほとんど無くなり、また、crp遺伝子欠失株では親株に比してvibrioferrin生合成酵素オペロン(pvsオペロン)の鉄制限下と鉄豊富下との間の発現比(鉄制限下/鉄豊富下)が低下していた。さらに、CRPタンパク質を精製し、ゲルシフトアッセイを行ったところ、pvsオペロンのプロモーター領域に結合することが分かった。以上のことから、CRPはpvsオペロンの転写を直接制御し、vibrioferrin産生を調節していることが示唆された。 また、腸炎ビブリオcrp遺伝子欠失株のCaco-2細胞への細胞毒性についても検討した。その結果crp遺伝子欠失株では、T3SS1(3型分泌装置1)を介する細胞毒性については影響しなかったが、T3SS2(3型分泌装置2)を介する細胞毒性は消失した。このことはCRPがT3SS2遺伝子の発現を調節している可能性を示しており、現在この調節機構について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・いくつかの病原細菌においてシデロフォアは病原因子として知られているため、腸炎ビブリオのvibrioferrinも宿主に影響を与えると考えられる。そこで、本菌のvibrioferrinやその生合成酵素群が宿主細胞に与える影響について細胞毒性を指標に検討を重ねたが、宿主細胞に対する影響については現在まで見出させていない。2018年度は、鉄制限下で産生するvibrioferrinが、炭素源制限応答に関わるCRPによっても転写制御を受けることがわかり、vibrioferrin産生が鉄制限と炭素源制限に対するストレス応答の連携によって調節されていることが示唆された。今後、鉄制限と炭素源制限の連携によって産生調節されているvibrioferrinが宿主にどのような影響を与えるかについて明らかにする必要がある。 ・2018年度は、CRPがT3SS2を介する細胞毒性の発現に関与することが分かった。さらに、crp遺伝子欠失株と親株から調製したmRNAを用いてqPCR解析を行ったが、親株に比してcrp遺伝子欠失株で転写量が少なくなっているT3SS2関連遺伝子をまだ見出せていない。今後、CRPが間接的にT3SS2遺伝子の発現を調節している可能性についても検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
・これまでに、CRPだけでなく炭素源代謝のグローバル転写因子であるDksAもvibrioferrin産生を調節するという予備的な実験結果を得ている。今後は、DksAによるvibrioferrin産生調節機構を解明するために、レポーター解析、RT-qPCR、プライマー伸長解析等により、dksA遺伝子欠失株におけるpvsオペロンの発現量の変化を調べる。また、DksAは炭素源制限下やアミノ酸制限下における警告物質であるppGppと共同でRNAポリメラーゼに作用し転写制御していることが知られている。そこで、ppGpp非産生株を構築し、vibrioferrin産生の変化を調べるとともに、pvsオペロンの発現量の変化を調べる。 ・CRPは、炭素源代謝に関わる遺伝子の発現を調節する小分子RNA Spot 42の発現を調節することで、Spot 42に調節されている遺伝子を間接的に制御している。2018年度の研究結果よりCRPがT3SS2遺伝子の発現を調節していることが示唆されたが、これはT3SS2遺伝子の発現がCRPに発現調節されるSpot 42によって調節されている可能性も考えられるため、Sopt 42の標的となりうるT3SS2 mRNAをバイオインフォマティクス的手法で探索し、RNA-RNA結合実験やin vitro翻訳解析等を実行する。 ・dksA遺伝子欠失株において、Caco-2細胞への細胞障害性の低下についてLDHアッセイ等で検討する。また、DksAがT3SS1やT3SS2の遺伝子を制御する可能性があるため、dksA遺伝子欠失株におけるこれら遺伝子の発現をqPCRなどで調べる。
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