研究課題
リン脂質の1つであるホスファチジルセリン(PS)に対する受容体がエボラウイルスの侵入に関与するという報告から、エンベロープ外膜に集積するPS依存的な侵入機構の存在が示唆されている。エボラウイルスは形質膜から出芽する際にエンベロープを獲得する。PSは正常細胞の形質膜において内膜に局在することから、感染細胞において、何らかの機構によりPSがウイルスエンベロープ外膜に集積することが予想される。これまで、このプロセスに関与する宿主因子としてXkr8を同定し、Xkr8がウイルス糖タンパク質と共に形質膜へと小胞輸送された後にウイルス粒子に取り込まれ、PS集積に貢献する可能性を示した。本研究においては、さらに詳細なPS集積機構を分子レベルで解明することを目的とする。現在までに、PSと特異的に結合するAnnexin Vをプローブとした凍結割断レプリカ法によりエボラウイルス様粒子へのPS集積を証明することに成功した。また、ウイルス粒子形成における小胞輸送の役割について検討した結果、ウイルス粒子形成の際に、リサイクリング小胞の形質膜への膜輸送が促進すること、またリサイクリング小胞の形成を阻害することで、ウイルス粒子形成が阻害されることを証明した。さらに、組み換えエボラウイルス並びに野生型エボラウイルス感染細胞において、リサイクリング小胞の形質膜への膜輸送が誘導されることを確認した。以上の結果から、ウイルス粒子形成の際に、感染細胞の小胞輸送が関与する可能性が示唆された。今後は、小胞が形質膜に至るまでの脂質二重層のPS分布の変動に着目し、エンベロープ外膜へのPS集積への関与について検討を行うと共に、この機構に関わる分子機構の解明を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、研究協力者である藤田秋一博士(鹿児島大学)との連携により、PSと特異的に結合するAnnexin Vをプローブとした凍結割断レプリカ法によりエボラウイルス様粒子へのPS集積を証明することに成功した。また、エボラウイルス様粒子が形成される際に、リサイクリング小胞の形質膜への輸送が促進すること、またリサイクリング小胞の形成を阻害することで、ウイルス様粒子形成が阻害されることを証明した。さらに、研究協力者である河岡義裕博士(東京大学医科研)、研究分担者である津田祥美博士(北海道大学)との連携により、組み換えエボラウイルス並びに野生型エボラウイルス感染細胞において、同様に、リサイクリング小胞の形質膜への膜輸送が促進することが確認された。以上の結果から、ウイルス粒子形成の際に、感染細胞の小胞輸送が関与する可能性が示唆され、輸送の過程における脂質二重層のPS分布変動が、エンベロープ外膜へのPS集積への貢献することが示唆された。今後は、本仮説の証明ならびにこの過程に関与する分子機構の解明を試みる予定である。
現在、ウイルス様粒子形成に関与するリサイクリング小胞輸送以外の生体膜輸送経路の同定を試みている。今後は、これらの膜輸送プロセスにおける、小胞由来生体膜のPS分布変動を追跡する予定である。また、各種小胞輸送における生体膜のPS分布変動に関わる既知の因子に焦点を当て、エンベロープ外膜へのPS集積メカニズムの同定を試みる。これと並行して、精製したウイルス様粒子について質量分析解析を行い、これに内包される宿主因子を網羅的に同定し、前述したPS分布変動に関与する因子が含有されるか否かを検討する。さらに、組み換えエボラウイルス並びに野生型エボラウイルス感染細胞の系を用いて、同様の機構が関与するか否かについて検証を行う。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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