研究課題/領域番号 |
18K07145
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金井 祐太 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (80506501)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロタウイルス / 下痢症 / リバースジェネティクス |
研究実績の概要 |
ロタウイルス(RV)のNSP4タンパク質はウイルス性腸管毒素として知られている。我々は2017年に世界初となるRVの完全な遺伝子操作系を報告し、任意の変異を加えた組換えRVを自在に作製できることを示した。本研究では、NSP4遺伝子に任意の変異を加えた組換えロタウイルスを作製することで、RV感染によるNSP4タンパク質の生物学的機能の解明を試みた。 NSP4の下痢発症に関与するドメインを探索するため、昨年度に作製したRV SA11株のNSP4変異株を生後4日齢のBalb/cマウスに経口投与し下痢発症能を比較したところ、顕著に下痢発症能が低下したNSP4変異株が得られた。当該のアミノ酸変異体について引き続き確認実験を行っている。しかし野生型SA11株のマウスに対する感染効率が低いことからマウス感染実験の再現性が低いことも明らかとなった。そこでより確実なRVのマウス感染モデル構築の為、感染後のマウスから得られたSA11をさらにマウスで感染継代し、マウス馴化株の構築を試みた。マウスで継代したSA11m株の成マウス(3週齢)に対する感染実験を行ったところ、野生型SA11株と比較し、SA11m株の感染性が若干増加した結果が得られた。マウスへの感染性に寄与するウイルス遺伝子解析のため、SA11m株の全遺伝子配列の解析と遺伝子操作系の構築を行った。また別の実験系として、マウスで好適な感染性を示すマウスRVの遺伝子操作系の構築を試みた。これまでのところ、完全な組換えマウスRVの人工合成には成功していないが、SA11株をバックボーンとし、複数のマウスRV由来遺伝子分節を持つキメラRV株を作製に成功した。SA11とマウスRVのキメラウイルスはin vitroでマウスRVよりも高い増殖性を示し、マウスではSA11株よりも高い感染性を示したことから、好適なRVのマウス感染モデルとなる可能性が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下の3項目を基盤計画として進めている。1)NSP4変異ウイルス株のマウスにおける病原性解析、2)NSP4変異ウイルス株の培養細胞における生理学的機能解析、3)NSP4粒子形成ドメイン変異ウイルスのウイルス複製能への影響。(1)について、これまでに多数のNSP4変異ウイルスを作製し、マウスへの感染実験により、下痢発症の低下に関与が予想されるアミノ酸変異体が得られたが、使用しているサルRV株であるSA11株のマウスへの感染性が低いことから、十分な再現性を得るのが困難である。より好適なマウス感染モデルの構築として、マウス馴化SA11株の作製とマウスRV株の遺伝子操作系の構築を試みた。両者とも野生型SA11株と比較し、マウスでの感染性が向上していることから、今後はこれらのウイルス株を用いて実験を行っていく。(2)については、マウス体内でのRV感染動態を再現するために、マウスの腸管由来細胞を用いて不死化細胞(ICBc細胞株)を樹立した。RVのin vitro実験で広く使われているサル腎由来MA104細胞では、マウスRVの増殖性はSA11株と比べ100-1000倍程度低下するが、幾つかのICBc細胞株においてはマウスRVとSA11株の増殖性は同程度であった。この結果から、これらICBc細胞はマウスでのRVの感染性を反映しているように思われた。(3)については、作製したNSP4変異ウイルスの内、N末端領域の欠損変異体の増殖能が極度に低下することが分かった。さらにNSP4のC末端領域にあるdouble layered particle結合ドメインを欠如した組換えRV株を作製したところ、ウイルスの複製能が顕著に低下しており、従来予想されていたようにNSP4と未熟なウイルス粒子であるdouble layered particleとの結合が、ウイルス粒子の成熟に必要であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに多数のNSP4変異ロタウイルス(RV)株を作製し、下痢発症能に関与するアミノ酸残基が推定された。しかしながら研究に使用しているサルRVであるSA11株のマウスに対する感染性が低いことから、結果の確証には至っていない。現在、よりマウスに対する感染性が高いRV株として、マウス馴化SA11株およびマウスRVの遺伝子操作系の確立を行っている。今後はこれらのロタウイルス株を用いて、これまでに得られたNSP4アミノ酸変異の確認実験を行う予定である。培養細胞で増殖能が低下したNSP4のN末端もしくはC末端欠失変異体については、ウイルス感染の吸着、侵入、脱殻、ゲノム複製、アセンブリーのそれぞれの過程における効率を調べ阻害されるステップを同定する。このように複製能が低下したウイルス株は低病原性ワクチン株として利用できる可能性があるため、マウスに対する感染性および下痢発症能についても同時に調べる予定である。 これまでマウスRVは、培養細胞で継代することによりマウスへの感染性が低下することが知られていた。本研究で樹立したICBc細胞はマウスRVのin vitroでの研究に使用できる可能性がある。今後はマウスおよびICBc細胞へのRVスの感染性を詳細に調べることで、ICBc細胞の特性を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はNSP4変異ウイルスの作製とマウスへの感染実験を主に進めたが、ロタウイルス人工合成法の効率が格段に上がったために、予算使用額は予定よりも抑えることが出来た。最終年度は、これまでに得られたロタウイルス変異株のマウス実験を予定しているため、繰り越した予算をこれらに使用する予定である。
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